久保天随
漢文叢書-第10冊[254]
止は、至善に止まるを云う、艮は止まるの義に取る、背は、只だ止まりを言う、人の四體、皆な動く、背ひとり動かぬにより、止まりの義に取る。
欲は、私欲なり、不見とは、欲を見ざるを云う。
目を覆い隠して物を見ざるに非ず、背の後ろに在りて、物を見ざるにより、かりて物欲を見ず、天理の至善に止まるの義とす。
言う心は、人の其の止まるべきところに安んずること能はざる所以は、心、物欲に動いて、外へ馳せて、内に存することなきにより、止まること能はざるなり。
物欲、己が前に引き誘いて、内を動かし、心、外を願えば、其の止まるべきことを求むとも得べからず、それ故に、艮の道は、まさに其の背に止まるべし。
人の四體、いづれも動けども、背は動かず、物を見、外に交わるも、皆な前にあれども、背は、これに背きて、少しも是れ見ざるところなり。
人もよく天理の公なるところを見て、人欲の私を少しも見ず、物の外に引くも見ず、只だ純一にして、見ざるところに止まる時は、即ち物欲以て其の本心を乱し動かすことなくして、止まること乃ち安く静なり。
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