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先頭が「も」のことわざ・慣用句の意味と読み方

孟母断機の教え(もうぼだんきのおしえ)

本当に為すべきことであるならば、途中でやめることなどはありえない。
その人生・将来に必要なことなら、どのようなことがあってもやりぬくべきだということ。
孟母断機のいう「やりぬくべき」ことは、自分たちの生活・将来にとって「絶対的に必要」なことを指す。
一般的には「一度始めたら途中でやめてはいけない」といった意味とするが、その内容が「絶対的に必要」なものでないのなら当てはまらない。
つまり「“何事であっても”途中でやめてはならない」という意味ではない。
出典は列女伝の母儀。
学問を中途半端でやめて帰省してきた孟子に対し、孟子の母が織りかけの織物を断ち切って「お前が学問を止めるのは、私が機織りを止めるのと同じことだ」と戒めた故事。
なお、故事中から推察するに、機織りは孟子一家にとっての食べ物を得るための手段であり、これを止めることは、食べ物を得られなくなって生活に窮することを意味する。
対して、孟子の学問は将来における一家の生活を左右することであり、それを止めることは、将来の生活に窮することを意味するのであろう。

出典・参考・引用
劉向「列女伝」母儀
関連タグ
ことわざ
慣用句
出典
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列女伝

孟子わかかりしとき、既に学びて帰る。
孟母、まさつむぎ、問うて曰く、
学の至る所はいずれぞ、と。
孟子曰く、
自若じじゃくたり、と。
孟母、とうを以て其のしょくを断つ。
孟子、おそれて其のゆえを問ふ。
孟母曰く、
の学を廃するは、吾がしょくを断つがごときなり。
夫れ君子は学を以て名を立ち、問ひて則ち知を広む。
是れ以て居れば則ち安寧、動けば則ち害を遠ざく。
今、なんぢは之れを廃せり。
是れ廝役しえきまぬがれずして、以て禍患かかんに離るること無からん。
何を以てか織績しょくせきして食し、中道にして廃して為さざるにことならんや。
むしろ能く其の夫子ふうしすも、しかも長く糧食りょうしょくに乏しからざらんや。
女は則ち其の所食しょしょくを廃し、男は則ち脩徳しゅうとくつ。
窃盗せっとうを為さずんば、則ち虜役りょえきと為らんのみ、と。
孟子おそれ、旦夕たんせき学を勤めてまず。
子思ししに師事し、遂に天下の名儒と成る。
君子謂ふ、
孟母は人と為すの母たるの道を知れり。
詩に云はく、彼のしゅたる者は子、何を以てか之れに告げん、とは此れ之れを謂ふなり、と。

孟子がまだ若かったとき、学問途中で帰省した。
孟母は機織はたおりをしながら尋ねて言った。
学問の進み具合はどうですか、と。
孟子が言った。
あまり変わりはありません、と。
すると孟母は刀で機織り途中の織物を切断した。
孟子はびっくりして理由を尋ねた。
孟母が言った。
あなたが学問を途中で投げ出すのは、私がこの織物を途中で切断してしまうのと同じことなのです。
そもそも君子たる者は学問で名実ともに充実させます。
ですから居れば安寧を得ますし、動けば危害を未然に防ぎます。
今、あなたはこれを自ら棄てたのです。
このままでは人に左右される人間になってしまい、決して災難から逃れることはできないでしょう。
機織はたおりして生活の糧にしているのに、途中でやめてしまうのと何の違いがありましょうか。
家族が着るだけの衣服を織るだけで満足し、それで機織りを止めたとしたら、どうやって食べてゆくことができるでしょう。
私は食を得るところを棄て、お前は自分の成長を諦めてしまう。
そのようなことでは、盗みをしないとしたら、私たちは奴隷になるしかないのです、と。
驚いた孟子は朝夕学問に勤めて怠ることがなかった。
子思ししの弟子となり、やがて天下の名儒と成った。
心ある人々は言った。
孟母は人を育てる母たるの道を知っている。
詩経に「彼のしゅたる者は子、何を以てか之れに告げん」とあるのは、当にこのことだろう、と。

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語句解説

孟子(もうし)
孟子。戦国時代の思想家。孔子の孫である子思に学び、儒学に通ず。各国を遊説して王道政治を唱えた。亜聖と尊称。
自若(じじゃく)
そのまま。
廝役(しえき)
雑役、めしつかい。
織績(しょくせき)
機織りする。
子思(しし)
子思。春秋時代の魯の学者。孔子の孫で、孔子の高弟であった曾子に師事した。中庸の著者とされる。


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