先頭が「ふ」のことわざ・慣用句の意味と読み方
覆水盆に返らず
本来は一度別れた夫婦は元の鞘に収まりにくいという意味。
現在では、一度やってしまったことは取り返しがつかないといった意味で使われる。
類義語として「後悔先に立たず」など。
通俗編の地理に登場する。
辞典
婦、一度夫の家を去らば、再びかえること能はざるに喩える。
- 落花枝に上り難し、破鏡重ねて照らさず(五燈会元)
- 怪しむべきは、買臣の妻、貧に困りて去ることを求めて、覆水の収め難きを思はず(故事成語考)
- 太公初め馬氏を娶る。書を読みて産を事とせず、馬去るを求む。太公斉に封ぜられ、馬再び合せんことを求む。太公、水一盆を取り地に傾け、婦をして水を収めしめ、惟だ其の泥を得たり。太公曰く、若し能く離れて更に合ふ、覆水定めて収め難しと(拾遺記、鶡冠子注)
転じて、一旦為し終わりしことは「取り返し」の「つかざる」ことにも用いる。
- 国家の事、亦た何ぞ容易ならん。覆水収まらず、宜しく之を深思すべし(後漢書)
- 雨落ちて天に上らず、覆水再び収め難し(李白詩)
*簡野道明編「故事成語大辞典」579/923
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覆水盆に返らずに関する出典・逸話・訳・書き下し文
古典関係
覆水盆に返らずに関する古典の参考
- 公、盆を取りて地に覆ひ、之を収めしむるに、惟だ少泥を得るのみ。公曰く、誰か言ふ離して更た合す、覆水定まりて収め難しと。(翟灝:通俗編-地理[覆水難收])
備考-出典に関して
辞書などに「拾遺記」と共に出典元として挙げられる漢書の朱買臣伝であるが、漢書の朱買臣の伝には「出世した朱買臣が道で前妻と再婚相手の夫を見つけ、苦しい頃に世話になったお礼に二人を屋敷に住まわせたが、一ヶ月して前妻は自殺をした」とあるだけで「覆水盆に返らず」の故事は載っていない。
他で調べていくと昆劇のなかで朱買臣と妻の崔氏との説話として「痴夢」という演目があるらしく、これは清代の伝奇「爛柯山(らんかざん)」の一節にある話とのこと。
そのあらすじは「朱買臣と別れた妻は、他の男と再婚したが、朱買臣が科挙に合格して一躍富貴な身分になると別れたことを後悔した。ある日、朱買臣から迎えの使者が来て喜んだが、実はこれは夢で、夢から覚めてみると元のままであった。悲しみにくれる崔氏は実際に朱買臣に復縁を願い出た。朱買臣はお盆の水を庭にこぼして元に戻せたら復縁しようと言ったが、崔氏がいくら一生懸命に水をすくっても、すくえたのは泥水だけであった。やがて絶望した崔氏は自殺するに至った」といった話らしい。
また、清代の出典辞典である「通俗編」には「故事」の項の中の「朱買臣妻」で「今の俗書には朱買臣が前妻にお盆の水を地に覆って、再び収めることはできないことを示したと記述されているが、これは太公望の故事と同じであり、詞曲家などが組み合わせたものではないか」と記している。
尚、拾遺記に関してもWikisourceの中国版にある原文を見た限りでは、その中に該当部分を見つけることはできなかったが、他で拾遺記の原文を見つけることができなかったのでなんとも言えない。
※漢書及び拾遺記にある「覆水盆に返らず」の該当部分を知っている人がいらっしゃれば教えて頂けるとありがたい。