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和歌・道歌・漢詩にある名言

橋本左内

二十六年、夢の如く過ぐ。
平昔を顧思すれば感ますます多し。
天祥の大節、嘗て心折す。
土室なほ吟ず、正気の歌。

出典・参考・引用
野崎海東著「牢獄之英雄」36/95
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橋本左内
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獄中作

二十六年如夢過。
顧思平昔感滋多。
天祥大節嘗心折。
土室猶吟正気歌。

二十六年、夢の如く過ぐ。
平昔へいせき顧思こしすれば感ますます多し。
天祥てんしょうの大節、嘗て心折しんせつす。
土室どしつ猶ほ吟ず、正気せいきの歌。

思えば二十六年、夢の如くに過ぎた。
昔のことを思い返せば、感慨深いものである。
かつて文天祥の大節に敬服したが、私もまた同じく土牢にあって、正気の歌を詠うのだ。

苦冤難洗恨難禁。
俯則悲痛仰則吟。
昨夜城中霜始殞。
誰知松柏後凋心。

苦冤くえん、洗ひ難く恨み禁じ難し。
すれば則ち悲痛、仰げば則ち吟ず。
昨夜城中、霜始めてつ。
誰か知る、松柏しょうはく後凋こうちょうの心。

無実の罪は雪ぎがたく、痛恨の思いは禁じ得ず。
俯せば悲痛の想いが巡り、仰げば吟じて之を馳す。
昨夜舞い散る霜の中、誰が我が松柏の操を知らん。

欹枕愁人愁夜永。
陰風首裂折三更。*1
旻天憶應憐幽寂。
一點星華照檣明。

枕をそばだてて、愁人しゅうじん夜の永きを愁ふ。
陰風いんぷう首を裂して三更さんこうつ。
旻天びんてんおもふに応に幽寂ゆうじゃくを憐れむ。
一点の星華せいかまどを照らして明らかなり。

枕を傾けて、夜の永きを愁う。
冷たい風が首筋を通りぬけて、夜更けの到来を知らせてくれた。
天が牢獄の静けさを憐れんで、一つ星を窓から照らしてくれるのだろう。

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語句解説

文天祥(ぶんてんしょう)
文天祥。南宋の忠臣。宋再興に奮戦するも成らず、元に捕らえれて刑死した。元の皇帝であるフビライはその人物を惜しんで幾度となく仕えるように勧めたという。牢獄で決意を詠んだ「正気の歌」は有名。
苦冤(くえん)
無実の罪で苦しむこと。
陰風(いんぷう)
北風。冬の風。
三更(さんこう)
夜更け。五更の第三で、午後十一時から午前一時をいう。
旻天(びんてん)
大空。天。
  • *1首裂は刺骨とする書もある。

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