和歌・道歌・漢詩にある名言
曹操
老驥、櫪に伏すも、志、千里に在り。
烈士暮年、壮心已まず。
- 出典・参考・引用
- 笹川臨風「支那文学大綱」第14巻22/69
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歩出夏門行
東臨碣石。以觀滄海。水何澹澹。山島竦峙。樹木叢生。百草豐茂。
秋風蕭瑟。洪波湧起。日月之行。若出其中。星漢燦爛。若出其裏。
幸甚至哉。歌以詠志。
東に
水何ら淡々、山島
日月之れ行く、其の
東に碣石を臨み、以て大海原をみる。
悠々と広がる大海原、傍らには断壁がそびえ立ち、その上には樹木百草が生い茂る。
秋風がさびしく吹けば、その水面に波のざわめき湧き起こる。
日月の出入、星河の輝き、まるで大海原より出づるが如し。
幸いなるの至りというべし。
志を歌にして詠ぜん。
孟冬十月。北風徘徊。天氣蕭清。繁霜霏霏。鵾鶏晨鳴。鴻雁南飛。
鷙鳥潛藏。熊羆窟棲。錢鎛停置。農收積場。逆旅整設。以通商賈。
幸甚至哉。歌以詠志。
初冬十月、北風は吹きすさみ、天気は凄然として透き通り、霜がさんさんと舞い降りる。
朝になりて鶏鳴き、雁は南に飛び、猛禽はどこかに隠れ、熊は冬眠す。
農具を仕舞い、収穫を蓄え、旅籠を整えて商人たちを迎えよう。
幸いなるの至りというべし。
志を歌にして詠ぜん。
郷土不同。河朔隆寒。流澌浮漂。舟船行難。錐不入地。蘴籟深奧。
水竭不流。冰堅可蹈。士隱者貧。勇侠輕非。心常歎怨。戚戚多悲。
幸甚至哉。歌以詠志。
郷土同じからず、
士隠者は貧しく、勇侠
ここは異郷の地、河北の冬は厳寒たり。
流氷が漂いゆき、船舶は行き難し。
穴を穿つも地表は見えず、凄涼として音のみ澄み渡る。
水の流れは閉ざされて、堅き氷を踏みしめ行かん。
野に隠れたる士君子は清貧を厭わず、勇侠の士は世に容れられずして倦むことなし。
人世は常に歎きと怨みに満ち溢れ、志を憂えて悲しむ多し。
幸いなるの至りというべし。
志を歌にして詠ぜん。
神龜雖壽。猶有竟時。騰蛇成霧。終為土灰。老驥伏櫪。志在千里。
烈士暮年。壯心不已。盈縮之期。不獨在天。養怡之福。可得永年。
幸甚至哉。歌以詠志。
烈士
霊亀は長寿なれども必ず死し、竜は霧と共に現れるも、終には
老いたる駿馬は馬屋に伏すも、その志は千里を馳す。
烈士もまた年を経て、その壮心は已むことなし。
時節の満ち欠けは、独り天に在らず、心に喜神を含めば遂には長久せざるなし。
幸いなるの至りというべし。
志を歌にして詠ぜん。
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語句解説
- 曹操(そうそう)
- 曹操。三国時代の魏の始祖。治世の能臣、乱世の姦雄と称せらる。政治、兵法に優れると共に詩文にも才を発揮。献帝を擁して天下に覇を唱えた。
- 碣石(けっせき)
- 山の名前で河北省にあったとされる。
- 滄海(そうかい)
- 大海原。青々とした海。
- 竦峙(しょうじ)
- そばだつ。細長くそびえたつ。
- 叢生(そうせい)
- 生い茂る。草木などが群がり生えること。
- 豊茂(ほうも)
- 豊かに茂ること。多く茂ること。
- 蕭瑟(しょうしつ)
- 秋風のびゅうびゅうと風の吹き抜ける様。ものさびしい様子をいう。
- 洪波(こうは)
- 大波。洪濤(こうとう)。
- 涌起(ようき)
- 湧き上がること。
- 星漢(せいかん)
- 銀河。天の川。星河。漢は漢水から転じて川の意。
- 燦爛(さんらん)
- きらめき輝く様。きらびやか。
- 孟冬(もうとう)
- 初冬。陰暦十月の異名。孟ははじめの意。
- 蕭清(しょうせい)
- ものさびしく清い。
- 繁霜(はんそう)
- 霜が繁る。多く霜が降りること。また、髪などが白くなったことのたとえにも用いる。
- 霏霏(ひひ)
- 雪や雨がしきりに降るさま。また、雲のながれるさま。物事がつづいて絶えない様。
- 鵾鶏(こんけい)
- 大きな鶏。
- 晨(あさ)
- あさ、あした、あさをつげる。
- 鴻雁(こうがん)
- かり。がん。鴻は雁の大きなものをいう。
- 鷙鳥(しちょう)
- 猛禽。性質のあらい鳥。わしやたかなど。
- 熊羆(ゆうひ)
- 熊と羆(ひぐま)。転じて、勇猛なるものをたとえていう。
- 銭鎛(せんぱく)
- すき、くわ。銭、鎛ともにすきの古名。
- 逆旅(げきりょ)
- 旅館。宿屋。旅人を逆(むか)える所の意。
- 商賈(しょうこ)
- 商人のこと。
- 河朔(かさく)
- 河北。黄河以北の地。
- 隆寒(りゅうかん)
- 厳寒。冬の厳しい寒さ。
- 流澌(りゅうし)
- 流氷。澌はつきる意で、全てのものがつきて滅びることをいう。
- 浮漂(ふひょう)
- 水に浮かび漂うこと。うわついて実質のないこと。
- 錐(すい)
- 先端の鋭利なもの。はりやきりなど。穿つものを錐という。
- 蘴籟(ほうらい)
- 蘴は茂り盛んな意。籟はふえ、ひびき。天籟で自然の吹き起こす音とある。以上から察すると「音の鳴り響く」意だが真贋は不明。
- 戚戚(せきせき)
- 親しむこと。共感して感じ入る様。また、憂えること。
- 神亀(しんき)
- 霊亀。吉兆とされる亀。その甲を焼き、ひびわれの状態で吉凶を占ったとされる。
- 騰蛇(とうだ)
- 竜の属。
- 老驥(ろうき)
- 年老いた駿馬。また、老年の峻傑を例えていう。驥は一日に千里を走る駿馬のこと。
- 櫪(れき)
- うまや。馬小屋。かいおけ。
- 盈縮(えいしゅく)
- みちかけ。
- 養怡(ようい)
- よろこびを養うこと。怡はよろこびで、主に神意や心をいう。