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エピクテトス

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提要[7]

航海中船が一事港に投錨し、汝は水酌に船を降り、途中また貝殻や小魚を捨ふことがあろう。
然し其の時汝の心は常に船に向ひ、船長が呼んで居らんかと絶えず振り返って見なければならぬ。
而して若し彼が呼んで居らば、羊の如く縛られて(不従順或いは脱走の奴隷に於ける如く)船の中に投げ込まれざらぬように、皆を止めてしまわなければならぬ。
人生に於いてもこの通りである。
汝じ妻子を有たば、之を楽しむもまた可である。
然し一旦船長が呼ばば、汝は船にかけつけ、万事を放棄しなければならぬ、何か物を得んとて周囲を見回してはならぬ。
汝既に老いてあれば、兎に角船から遠ざかってはならぬ。
さもなくば、船長が呼ぶ時に汝は船に乗り損なうことがあろう。

現代語訳・抄訳

航海をしていて船が一時、港に停泊することがあれば、お前は水を補給したり、貝殻や小魚を拾ったりすることもあろう。
されど、お前は常に心を船へと向けて、船長がお前を呼んではおらぬかと絶えず振り返らねばならぬ。
そして、もしも船長が呼んでいるならば、羊の如くに縛られて船に投げ込まれぬように、すべてを投げ捨てて一心に戻らねばならぬ。
人生においてもこの通りである。
お前は妻子を持ち、これと人生を楽しむのも可である。
されど、一たび船長がお前を呼んだのならば、お前は一心に船へと駆けつけ、すべてを放棄せねばならぬ。
何か物を得ようと周囲を見渡してはならない。
特にお前が既に老齢であるならば、船から決して遠くに行ってはいけない。
さもなくば、船長の呼びかけに間に合わずして船に乗り損なうことがあろう。

出典・参考・引用
カ-ル・ヒルティ著・平田元吉訳「幸福」35/190,エピクテ-ト著・斎木仙酔(延次郎)訳「修養訓」21/105
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