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提要[30]

凡て義務は個人の境遇に順応するものである。
父ある者は之を敬し、万事につけ彼に譲り、彼が叱っても打ても之を堪えなければならぬ。
然し汝じ或いは言はん、父は悪人である、と。
然し天は必ず善良な父を人に与ふるものであるか。
否、単に一人の父を与えたに過ぎない。
汝の兄弟が汝に対して不義な事を為す。
然る時は汝の彼に対する関係を考えよ。
彼が行為に注意すな。
如何なる行いように依って、汝が行動が宜しきを得るかを考えよ。
汝が欲せざれば、誰も汝を悩ますことは出来ない。
汝が悩まされたと思うから、汝は悩まされるのである。
之と同じく、汝は隣人、同市民、長官等に対する義務の如何であるかを容易に知ることが出来るであろう。
只だ汝は此等の位置が如何なるものであるかを熟考する習慣を作りさえすれば之が出来るのである。

出典・参考・引用
カ-ル・ヒルティ著・平田元吉訳「幸福」48/190
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