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提要[12]

汝じ賢智に於ける本当の進歩を為さんと欲するならば、次のような間違った考えを除かなければならぬ。
「予れ若し予が財産を顧みなければ、予は生活の資に欠くるであろう。若し予が従者を懲らさなければ彼は仕損ずるであろう。」
贅沢なれども不安の心を以て生活するよりは餓死しても恐と憂とのない方が善い。
汝がその思を苦しめて不幸になるよりは、寧ろ汝の従者が仕損ずるほうが善い。
故に最も瑣細のものからして始めよ。
汝の油がこぼされ、或いは汝の油が盗まる。
然らば言え、「之を以て冷静を購得た、沈着を買得た、何物でも無代償で得らるるものはない」と。
汝の従者を呼ばば、同時に彼に聴えなかったかも知れぬと思え。
或いは聴けりとするも、彼は汝が欲することを為さぬかも知れぬと思え。
彼は宜しくない(と汝は言はう、そうかも知れない)。
然し汝は彼の為に悩まされないというのが肝要である。
何となれば汝の精神の安きを失ふと否とは一に従者の所為に関すればなり。

出典・参考・引用
カ-ル・ヒルティ著・平田元吉訳「幸福」37/190,エピクテ-ト著・斎木仙酔(延次郎)訳「修養訓」23/105
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