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エピクテトス

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提要[1]

世には人力の及ぶものと、及ばざるものとがある。
人力の及ぶものは観念、動機、欲望及び嫌悪である。
一言せば凡て吾人が意志の発動の之に興かれるものである。
人力の及ばざるものとは、身体、財産、名誉、地位等である。
一言せば吾人の作為に依らざるものである。
人力の及べるものは其の性質上自由であって、他が之を禁止することも出来なければ、妨害することも出来ない。
然し人力の及ばざるものは弱くして従属的である、妨害もせられ、他人から左右せらるることも出来る。
それだから汝よく之を思え、汝いやしくも元来従属的のものを自由なりと想い、他の物を自分の物と思はば、汝は必ず困却に遭遇し、悲哀と不安とに陥り、しかも天を怨み人を尤むるに至るべし。
之に反して、汝は実際汝自身の物であるものをのみ自分の物と思ひ、他人の物を他人の物と思はば、何人も汝に強いることがない、また汝を妨ぐることもない。
汝は誰人をも怨まず、誰人をも誹らず、嫌で事を為すことが少しもない。
何人も汝を害することがない。
汝は敵を有たない。
而して汝は汝に不利なることに遭遇することがない。
さて汝じ斯様な立派なものとならんと欲するならば、よく此の事を思え、汝は一通の熱心で之に懸っただけでは不足である、必ずや多くの事を全く棄てなければならぬ、また他の事を一時は廃棄せなければならぬ。
汝はかような立派なものを得んことを努力すると同時に、栄達富貴を得んと欲せば、汝は丁度前者を欲するの故で、それだけ此の後者を得ることが少ないであろう。
兎に角汝は此の二心あるが為め只だ幸福及び自由の依りて生ずるものを全く失うであろう。
此の故に汝は有らゆる不愉快なる考えに対して、次の如く言ふことを力めよ。
此れは之が見ゆる如きものでなくして、只だ考えによりて出来たものである、と。
然る後ち汝が容れた規則、特に第一の規則に照らして、是が人力の及ぶものであるや否やを検せよ。
而して若し之が人力の及ばざるものに属するならば、此の言葉を用意して置け、曰く、是れ予に関せず、と。

出典・参考・引用
カ-ル・ヒルティ著・平田元吉訳「幸福」31/190,エピクテ-ト著・斎木仙酔(延次郎)訳「修養訓」15/105
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