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司馬遷

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史記-本紀[項羽本紀][40]

項王の軍垓下がいかに壁す。
兵少なく食尽く。
漢軍及び諸侯の兵、之を囲むこと数重なり。
夜、漢軍の四面に皆な楚歌するを聞き、項王乃ち大ひに驚きて曰く、
漢、皆なすでに楚を得たるか。
是れ何ぞ楚人の多きや、と。
項王則ち夜起つて帳中に飲す。
美人有り、名は虞。
常に幸せられ従う。
駿馬あり、名はすい
常に之に騎す。
是に於いて項王乃ち非歌慷慨ひかこうがいし、自ら詩をつくりて曰く、
力は山を抜き気は世を蓋ふ、時に利なく騅は逝かず、騅の逝かざる奈何いかんすべき、虞や虞、なんじを奈何いかんせん、と。
歌ふこと数けつ、美人之に和す。
項王、なみだ数行下る。
左右皆な泣き、能く仰ぎ視る莫し。

現代語訳・抄訳

項羽の軍は追い詰められ、垓下に篭城した。
兵は僅かとなり、食は既に尽き、漢軍と諸侯の兵によって幾重にも囲まれた。
夜になり、漢軍の中から楚の歌が聞こえてきた。
項羽は驚いて言った。
ああ、漢は既に楚を得たか。
なんと楚人の多きことよ、と。
項羽は帳中に入り、酒宴を開いた。
傍らには美人がいた、名は虞。
常に寵愛され従っていた。
駿馬がいた、名は騅。
常にこれに騎して戦った。
やがて項羽は非歌慷慨して自ら詩を作って歌った。
我が力は山を抜き、気は世を蓋う程である。
しかるに時は我に利せず、騅は遂に逝かぬようになってしまった。
騅の逝かざるはどうするべきか、虞や虞や、お前をどうしよう、と。
項羽は繰り返し歌い、虞美人は之に応じた。
項羽の泣が数行下った。
左右の者もまた泣き、誰も仰ぎ見ることが出来なかった。

出典・参考・引用
秋山四郎著「項羽」69/77
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出典
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語句解説

項羽(こうう)
項羽。秦末の武人。向かうところ連戦連勝、わずか三年にして覇王を称すも劉邦との一戦に敗れて滅亡。四面楚歌の故事は有名。
闋(けつ)
歌を一回歌い終わること。
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