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論語-為政[3]

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原文

子曰。道之以政。齊之以刑。民免而無恥。道之以徳。齊之以禮。有恥且格。

書き下し文

[非表示]

子曰く、
之をみちびくに政を以てし、之をととのふるに刑を以てせば、民免れて恥づること無し。[1]
之をみちびくに徳を以てし、之をととのふるに禮を以てせば、恥有りて且つただ[2][3]、と。[4][5][6][7][8]

現代語訳・抄訳

孔子が言った。
これを導くに政治を以てし、これを整えるに刑罰を以てすれば、民は免れることを考えて恥ずること無し。
これを導くに徳化を以てし、これを整えるに禮節を以てすれば、恥ずること有りてかつ道理を同じくす、と。

出典・参考・引用
久保天随著「漢文叢書第1冊」69-71/600,伊藤仁斎(維禎)述、佐藤正範校「論語古義」26/223
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孔子
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備考・解説

宓子賤ふくしせん、単父を治めて三年、巫馬旗ふばきこれに往く。
夜に漁する者あり、魚を得てこれを逃がす。
問うて曰く、
漁するは魚を得んが為なり、何故捨てるか、と。
答えて曰く、
宓子ふくしは小魚を取るを欲せず、捨てるは小魚なり、と。
巫馬旗ふばき帰し、孔子に告げて曰く、
宓子ふくしの徳至れり。
民、闇にありて傍らに厳刑あるが如し、と。

政を以てするは覇道、徳を以てするは王道。
下なる者は上なる者の姿を見て則る。
敬するに足らば自ずから律す、至らざる己を恥ずればなり。
孟子、心の在没を以て人と禽獣の違いと為す、自省の大なるを知ればなり。
恥の一字は人たるの要、喫緊の語というべきか。

刑は外面を整え、禮は内面を整う。
刑は事起こりて後に制し、禮は事起らざるうちに律す。
故に司馬遷曰く、
禮は未然の前に禁じ、法は已然の後に施す、と。
守るべきところを自ずから守らしめるは禮の功用、自覚させずして法を巡らすは民を網するに同じ。
格は格物致知の格。
物をただすは禮の如し。
禮を以て示し、守るべきところを自覚させる、故にただしという。
禮は心身を灑掃するが如し。
塵俗払いて良心発露し、故に事物と己に乖離無し。
故に道理を同じくすという。

徳を以てするは恥有らしむ。
恥有らしめて禮で整う。
恥なくんば禮ありとも適わず。
足らざる己を恥ずる故に、禮を以て己を整う。
まずは上なる者が自らを以て心服させるが第一。
然る後に禮を以て、蔽われ、閑却されしを顕すべし。
恥有らば人たるに足り、禮有らば清し。

注釈

朱子
道は猶ほ引導のごとし、之に先んずるを謂ふなり。
政は法制禁令を謂ふなり、斉は之を一にする所以なり。
之をみちびいて従はざる者は、刑有りて之を一にするなり。
免れて恥無しとは、苟くも刑罰を免れて羞愧しゅうきする所無きを謂ふ。
蓋し敢へて悪を為さずと雖も、悪を為さんとするの心、未だ嘗て亡びざるなり。(朱子)
朱子
禮は制度品節を謂ふなり、格は至なり。
言はば、みづから行ひて以て之を率いれば、則ち民もとより観感かんかんして興起こうきする所有り、而も其の浅深厚薄の一ならざる者、又た禮有りて以て之を一にせば、則ち民、不善を恥て又た以て善に至ること有り。
一説に、格は正なり。
書に曰く、
其の非心をただす、と。(朱子)
陳新安
躬行きゅうこうの徳を以て民を率いれば、民、下に観感かんかん興起こうきして民化するの大本すでに立つ。
但し民の感発する者、浅深厚薄の不同有るを免れず、須らく禮の制度品節を以て一にして之をととのへ、浅薄なる者をして不及無く、深厚なる者をしてはなはだ過ぎること無く、其の未だ善を尽さざる者をして皆な禮に截然せつぜんたらしむべし。
民、不善に恥じるは、此れ徳に観感するの功、又た善に至るは、乃ち禮に斉一なるの効なり。(陳新安)
孔子
夫れ民、之を教ふるに徳を以てし、之を斉ふるに禮を以てせば、則ち民、格心かくしん有り。
之を教ふるに政を以てし、之を斉ふるに刑を以てせば、則ち民、遁心とんしん有り。(礼記[緇衣篇])
蒙引
道政斉刑は、只だ是れ民を威す、故に其の効は亦た只だ是れ民の畏を得るのみ。
道徳斉禮の若きは、則ち是れ民を化するの道、故に其の効は民も亦た之に化す。(蒙引)
朱子
政は治を為すの具*1*2、刑は治を輔くるの法、徳禮は則ち治を出だす所以の本にして、徳は又た禮の本なり。
此れ其の終始を相ひ為す、以て偏廃へんぱいす可からず。
然れども政刑は能く民をして罪に遠からしむるのみ。
徳禮の効は則ち以て民をして善に遷して自ずから知らざらしむるに有り。*3*4
故に民を治むる者は、いたずらに其の末を恃む可からず、当に深く基本を探るべきなり。(朱子)
許白雲
夫子言ふ、
政を為すに当に徳禮を以てすべし、と。
だ政刑を用いて本無きが若きは、善治を為すに足らず、然れば但だ独り政刑に任ず可からずと謂ふのみ。
但だ徳禮を用いて必ず政刑せずと謂ふに非ざるなり。
蓋し徳禮はもとより能く民を化す、而も政に非ざれば則ち徳意遍く下に流るること能はず。
天下を平らかにする所以は、必ず絜矩けっくの道*5を用ふ。
法制禁令有れば、則ち徳澤とくたくまさに下に流る可し。
堯舜の世と雖も、而も四凶有れば、刑も亦た廃す可からず。(通義)
伊藤仁斎
之を道くに政を以てする者は、其の邪志を禁ず。
之を斉ふるに刑を以てする者は、其の法を犯すを縄す。
皆な法を以てして徳を以てせず、故に民をして敢へて悪を為さざらしむると雖も、而も悪を為すの心は、未だ嘗てまざるなり。
之を道くに徳を以てする者は、其の徳性を養ふ。
之を斉ふるに禮を以てする者は、其の行義を励ます。
皆な徳を以てして法を以てせず、然らば民に観感かんかん羞恥しゅうちする所有りて、之をして悪を為さしむと雖も、而も敢へて為さず。
蓋し政刑の功は速なりと雖も、而も其の効は小なり。
徳禮の効は緩きに似て、而も其の化は大なり。
其の効は小なるが故に治は遂に成らず、其の化は大なるが故に其の治はいよいよ久しく、而も窮まり無し。
此れ風俗醇醨じゅんりの由りて分るる所、国祚こくそ修短しゅうたんの由りて判るる所、王覇の別は専ら此に在り。
先王、ひたすらに徳禮を恃みて政刑を廃せしに非ず、だ其の恃む所の者は、此に在りて彼に在らざりしのみ。(論語古義)

語句解説

羞愧(しゅうき)
恥じること。
観感(かんかん)
目に観て心に感じること。
截然(せつぜん)
明確にすること。区別をはっきりとすること。「さいぜん」とも読む。
四凶(しきょう)
舜に誅された四凶神。書経舜典では共工(きょうこう)・驩兜(かんとう)・三苗(さんびょう)・鯀(こん)。春秋左伝文公十八年では渾敦(こんとん)・窮奇(きゅうき)・檮杌(とうこつ)・饕餮(とうてつ)。
醇醨(じゅんり)
厚薄。醇は醇熟した酒のことで、醨はうす酒のこと。
国祚(こくそ)
国運。国のさいわい。
修短(しゅうたん)
長いことと短いこと。修は脩に通じて長い意がある。
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  • *1荘子天道篇「形名賞罰を語れば、此れ治の具を知ること有るも、治の道を知るに非ず」
  • *2漢書巻九十酷吏伝六十序「法令は治の具にして制治清濁の源に非ず」
  • *3礼記経解篇「民をして日に善に遷り、罪に遠ざけて自ずから知らざらしむるなり」
  • *4孟子尽心上「民、日に善に遷り、而して之を為す者を知らず」
  • *5大学の一節。上が見本をみせれば下は則る、これを以て君子絜矩の道有るなり

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