1. 孔子 >
  2. 論語 >
  3. 為政 >
  4. 1
  5. 2
  6. 3
  7. 7
  8. 11
  9. 24

論語-為政[1]

このエントリーをはてなブックマークに追加

原文

子曰。為政以徳。譬如北辰居其所。而衆星共之。

書き下し文

[非表示]

[1][2]
子曰く、
政を為すに徳を以てするは、たとへば北辰ほくしん[3][4][5]其の所に居りて、衆星しゅうせいの之にむかふが如し、と。[6][7][8][9][10][11][12][13][14][15]

現代語訳・抄訳

孔子が言った。
政治を行うに徳を以てするは、例えるならば北極星が中心となって、周りの星が自然と集ってくるようなものである、と。

出典・参考・引用
久保天随著「漢文叢書第1冊」65-67/600,伊藤仁斎(維禎)述、佐藤正範校「論語古義」25/223
関連タグ
論語
孔子
古典
<<  前のページ  |   ランダム   |  次のページ  >>

備考・解説

徳化で自然に帰するを王道といい、権力で屈服させるを覇道という。
北極星は常に一定の場所に在って動かず、他の星々はその周りを巡って已むこと無し。
故に星々が北極星に帰するに例えて、徳に由れば自然と人々が帰するをいう。
なお、帰するとは従うのではなく、文字通り“共”にすることである。
故に堯の治世に民の曰く、帝力何のことかあらん、と。

注釈

正義
左伝に曰く、
学びて而る後に政に入る、と。
故に前篇に次ぐなり。
此の篇の論ずる所の孝敬信勇は政を為すの徳なり、聖賢君子は政を為すの人なり。
故に政を為すを以て章首に冠し、遂に以て篇に名づく。(正義)
勿軒熊氏
五章に政を言ふ、皆な徳を以て本と為す。
曰く、孝友。
曰く、孝慈。
一身一家よりして之を推す。
孝を言ふこと四章、之を家に行ふ者なり。
行を言ふこと二章、之を身に行ふ者なり。
餘りは多く学を言ふ。
凡そ書を読んで人を観るの法、君子小人、吾が道と異端の辨亦たそなはる。
末後の二章は、禮楽を言ひて後篇の起頭と為す。(大全通考)
朱子
北辰は是れ天の枢紐すうちゅう、中間些子さしも動かざる処、人此れを取りて極と為さんことをもとむるにり、箇の記認きにん無かる可からず。
所以ゆえに其のかたわらに就きて一小星を取りて、之を極星と謂ふ。
天の枢紐すうちゅう輪蔵心りんぞうしんに似たり。
蔵は外面に在りて動き、しんつねに動かず。
問ふ、
極星は動くか動かざるか、と。
曰く、
た動く。
只だ他よりの辰に近く、動くと雖も覚えず、射糖盤子*1の如し。
北辰は便すなはち是れ中央の椿子しょうし*2、極星は便ち是れ椿に近き點子てんし*3なり。
た盤に随ひて転ずと雖も、椿子に近きに縁りて、便ち転じ得て覚えず。
沈存中しんぞんちゅう謂ふ、
始めて管を以て極星を窺ふに、管に入らず、後に極星を見るにあたり、管絃の上に在りて転ず、と。*4
史記に載す、北辰に五星有り、太乙常に中に居る、是れ極星なり。
辰は星に非ず、只だ是れ中間の界分、極星も亦たすこしく動く、辰は動かず、乃ち天の中、猶ほ磨の心の如し。(朱子)
類考
先儒皆な曰く、
天體に星無き処、之を辰と謂ふ、と。
今、星書を考うるに、辰を称すること一ならず。
北極の如きはもとより北辰と名づく、而して大火も亦た之を火辰と謂ひ、五星中の水星、又た之を辰星と謂ひ、十二支、又た之を十二辰と謂ひ、日月星、又た之を三辰と謂ひ、五行の時、又た之を五辰と謂ふ。
其の義をたづぬれば、蓋し辰巳の辰に起る。
辰位は乃ち星纒せいてん*5の首、歳に之を紀すや、壮辰の居所は経星の長と為す、水星近く日を輔くは行星の長と為す、大火は天帝の座、舎星の長と為す、故に長者は皆な辰と称す。
左伝に云ふ、*6
日月の会、之を辰と謂ふ、と。
一歳は日月十二会、日月の会する所、東方蒼龍角亢*7の星に始まり、角亢は辰に始まる。
故に始まる所の者を以て之に名づく。
うしより戌亥いぬいに至るまで、皆な長と称す可し。
故に十二辰と為す。
日月星辰に至りてことごとあらはる、故に三辰と称す。
素問に謂ふ、
五運、角軫*8に起る、と。
角軫は辰の分なり。
故に五行の時亦た五辰と称す。
書に曰く、*9
五辰を撫す、と。
是れなり。
然らば則ち星家豈に専ら天體に星無きを以て辰と為さんや。(類考)
天官書
北極は五星、第一星は太子をつかさどる、所謂前星といふ者なり。
第二星は帝を主る、第三星は庶子を主る、第四星は后を主る、第五星は極と為す、即ち天枢なり。
北極と言ふは、上の五星を兼ね、北辰と言ふは、専ら天枢の一星を主とす。
天枢の左右に別の四星有り、之を四輔と謂ふ。
後狭く前張る、箕斗きとに似て、すう其の内に在り。
当に夜を以てうかがひ望めば、第一星より四輔に至るまで、旋転せんてんして同じからず、而して天枢は昏旦こんたん一の如く、則ち信なるか。
周天の象、動かざる者は、惟だ此の一星なり。(天官書)
朱子
政の言たるは正なり、人の正しからざるを正す所以。
徳の言たるは得なり、道を行ひて心に得ること有るなり。
北辰は北極、天のすうなり。
其の所に居るとは動かざるなり、きょうは向ふなり。
言ふは衆星四面にめぐめぐりて之に帰向きこうするなり。
政を為すに徳を以てすれば、則ち無為にして天下之に帰す、其の象此の如し。(朱子)
陳新安
はじめに正の字を訓ずること顔淵篇に本づく。
夫子の政は正なり、子率て以て正さば、たれか敢へて正しからんの意。*10
蓋し政の理を以て言ふ。(陳新安)
不明
朱文公、徳の字を訓ずること、蓋し禮記の楽記篇に「徳は得なり、禮楽皆な得る、之を有徳と謂ふ」に倣うて言ふ。
初めには身に得るに作り、後には心に得るに改む。
夫れ道の字は広大、天下の共に由る所。
徳の字は親切、吾が心の独り得る所。
道を行ふとは之を身に行ふなり。
未だ以て徳と言ふに足らず、必ず心に得ること有らば、則ちに行ふ者、始めて心に之を得て、心と理と一と為る。
斯れ之を徳と謂ふ可し。
次第有り、帰宿有り、くはしきかな。(不明)
性理大全
徳は得なり、之を得て心と為す、之を有徳と謂ふ。
又た諸中に存するを徳と為し、外に発するを行と為す。
楊亀山曰く、
仁義己に足る、斯れ之を徳と謂ふ、と。(性理大全)
朱子
徳の字の心に従ふ者は、其の心に得るを以てなり。
孝を為すが如き、是れ心中に此の孝を得。
仁を為すは、是れ心中に此の仁を得。
若し是れ外面恁地にんちなれば中心此の如くならざるを得ず。
凡そ六経中、徳の字皆な此の如し。
故に曰く、*11
忠信は徳に進む所以なり、と。(朱子)
程子
政を為すに徳を以てして、然る後に無為なり。*12(程子)
朱子
是れ瑰然かいぜん*13として全く作為すること無きにあらず。
只だ是れ事を生じて民をみださず、徳を己に修めて人自然に感化し、作為を待たずして天下自ずから之に帰す、其の為す有るの迹を見ざるのみ。
問ふ、
是れ徳を以て政を為すや否や、と。
曰く、
是れ徳を以て政を為し去らんと欲するにあらず。
必ずしも以の字になずまず、只だ是れ政をおさめて徳有るに相ひ似たり、と。(朱子)
范祖禹
政を為すに徳を以てすれは、則ち動かずして化し、言はずして信、無為にして成る。
守る所の者は至簡にして能く煩を御し、処る所の者は至静にして能く動を制し、務むる所の者は至寡にして能く衆を服す。(范祖禹)
金仁山
王文憲曰く、
動かずして化し、言はずして信、無為にして成る、此れ感通の妙を言ふなり。
動かず言はざるは無為なり、化して信ずるは成なり、簡は理を以て言ひ、静は心を以て言ひ、寡は身を以て言ひ、煩は事を以て言ひ、動は物を以て言ひ、衆は民を以て言ふ、此れ統理の要を言ふなり、と。*14
二説を合して無為の義を尽す。
履祥りしょう按ずるに、*15
至簡は惟だ一理にしたがふ、自ずから以て事物のはんを御す。
至静は惟だ一心を正して、自ずから以て天下の動を制するに足る。
至寡は惟だ一身を修めて、自ずから以て人心の衆を服す可し。(通義)
伊藤仁斎
此れ政を為すに徳を以てせば、則ち無為にして天下之に帰するを言ふなり。
若し夫れ政を為すに徳を以てするを知らず、いたずらに智力を以て之をせんと欲せば、則ち労攘ろうじょう叢脞そうざいよいよおさめていよいよ理まらず。
此れ古今の患なり。
後世、経済の学を講ずる者、斯れ之れを務むることを知らずして、徒に區區くくとして儀章制度の間に求む、いやしきかな。(伊藤仁斎)

語句解説

北辰(ほくしん)
北極星の別称。
枢紐(すうちゅう)
枢は中枢、枢軸の枢で、動きをつかさどるもの・かなめをいう。紐はむすぶ意。両字から察するに「全体が結するところ」「大元」みたいな意か。
些子(さし)
いささか。
輪蔵(りんぞう)
八角形の経典を収める経箱。自由に回転するように心棒が通されている。
大火(たいか)
さそり座の首星であるアンタレスのこと。南の空に赤く輝いて見えることから。
五運(ごうん)
五行の運行。五行は木火土金水。
箕斗(きと)
星の名前。箕宿は射手座の東部、斗宿は南斗六星で射手座の北西部。
昏旦(こんたん)
朝夕。昏は日暮れ、夜。旦は夜明け、朝。
恁地(にんち)
このように。恁的。
労攘(ろうじょう)
つかれみだれること。労擾。
叢脞(そうざ)
煩雑でわずらわしいこと。くどいこと。叢はくさむら、むらがる意。脞はこまかいこと。
経済(けいざい)
経国済民の意で、国を治め世を済(すく)うこと。転じて、現在では主に生活に資するところ、即ち生産や流通、消費の類い全体を指す。
區區(くく)
區は区の旧字。行き届いた様。まちまちな様。得意の様。
<<  前のページ  |   ランダム   |  次のページ  >>
  • *1射糖は不明。盤子は大きな皿の意があるが当てはまるかは不明。
  • *2荘子に曰く「上古に大椿なる者あり。八千歳を以て春と為し、八千歳を秋と為す」。よく父母や長寿に例えられる。この場合は最も長なる星に例えるか?
  • *3點は点。小さな黒点。かすかな意。
  • *4朱子語類
  • *5星を纏(まと)う。おそらくは全体の意。
  • *6春秋左伝・昭公七年
  • *7蒼龍は青龍。方角は東。角はおとめ座中央部、亢はおとめ座東部。二十八宿の一。
  • *8角は青龍の初、軫は朱雀の末。東南(青龍は東方、朱雀は南方)は隣合い、角軫が最も隣接する。二十八宿の図をみると分かりやすい。ただし、これを指すのかは不明。
  • *9書経・虞書「皋陶謨」
  • *10論語顔淵篇。季康子が孔子に政を問い、答えて曰く「あなたが率先して正しければ皆それに従うでしょう」と。
  • *11易経乾卦・文言伝「子曰、君子進徳修業、忠信、所以進徳也、修辞立其誠、所以居業也。」
  • *12政治は作為あり。然れどもその作為は徳を以てするが故に人々感応して帰す。故に作為の跡無し。人の帰するは徳にあって政に在らず。
  • *13傀然(ひとり安らかにおる意)に同じか?
  • *14曰くの範囲不詳
  • *15履祥は金仁山の名。仁山は号。

関連リンク

徳は原字の直+心に行動を表す「彳」と書かれる。字から読み取ると、…
王道
中国儒学において理想とされる統治方法。力ではなく徳により人を治め…
覇道
覇者たるの道。権力・武力による統治方法。治世の道は主に王道と覇道…


Page Top