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論語-学而[5]

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原文

子曰。道千乘之國。敬事而信。節用而愛人。使民以時。

書き下し文

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子曰く、
千乗せんじょうの国*5おさむる[1][2][3]、事を敬して信[4][5][6][7][8][9][10]、用を節[11]して人を愛し、民を使ふに時を以てす[12]、と。[13][14][15][16][17]

現代語訳・抄訳

孔子が言った。
国を治めるに道あり。
事を為すに敬を存して信ぜられ、用いるに礼節存して人を愛し、民を使うに時宜を以てす、と。

出典・参考・引用
久保天随著「漢文叢書第1冊」42-45/600,伊藤仁斎(維禎)述、佐藤正範校「論語古義」19/223
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備考・解説

事は自ら為す場合、用は人を任用する場合、民は民衆を使役する場合をいう。
事は政事などと用いられるように、重要な事柄をいう。
重大事なれば為政者自らが方向を指し示すは当然のことである。
故に天地を敬し、宗廟を敬し、臣民を敬す。
事を敬して、国家一丸となるべく道を示す、故に皆なこれを信じて迷わず。
用は人を用いて任せることであり、節は節操、節度、礼節をいう。
士は己を知る者のために死すという。
自らの人格を愛して全てを容れる者に惹かれ、礼節を保ちて忽せにせぬ者に惹かれゆくは、志ある者の人情である。
国家は国士を得ざれば保ち得ず、故に野に遺賢なさしむるは為政者たるの責務である。
時は適切なる時期をいう。
国の先を見据えて公共事業を行うも、国の根幹たる民を厳酷に使役すれば将来を待ち得ずして国は衰退す。
故に時宜を見定めてこれを用いるは、為政者たるの要務である。

節用は倹の意味に取るのが主であるが、ここでは用は任用の意にした。
人に対しても物に対しても、節操存して忽せにぜざるを要とするは同じ。

注釈

蒙引
道は治なり。
朱子の小註に云はく、
治と言はずして道と言ふは、蓋し治は政教法令の謂ひ、治を為すの事なり。
夫子の此の言は心なり、故に道と曰ふ、と。
此れに依らば則ち当に解して道は治なりと云ふべからず。
且つ此の処既に道を以て心に従ふと為す、然らば則ち之を道びくに政を以てすの此の道の字、又た別たんが如し。
蓋し引く所の小註は、乃ち朱子未定の見。
今、道は治なりと曰ふ、則ち道は即ち治なり。
当に異論すべからず。(蒙引)
不明
道の治と訓ずる所以は、道は理なり、理*1、之を治と謂ふ。(不明)
程復心
道は治と訓ずと雖も、亦たほぼ分別有り。
若し禮楽刑政等の事を説かば、則ち千乗の国を治むと言ふ可し。
今、敬信節用等の処に従りて説く、只だ是れ治を為すの心、故に道と言ふなり。
却て治の字と訓ぜざるを得ず。(通義)
朱子
秦より以来、人の敬字を識る無し、程子に至りて、まさに説き得て親切なり。
曰く、一を主とす、之を敬と謂ひ、く無き之を一と謂ふ、と。
故に此れ合はせて之を言ふ。
身、是に在らば則ち其の心は是に在り、而して一息の離ること無し。
事、是に在らば則ち其の心は是に在り、而して一念の雑じること無し、と。(朱子)
覚軒蔡
敬は動静をね、主一も亦た動静をぬ。
此の章の敬の字は、乃ち是れ動を主として言ふ。(大全)
黄葵峯
主一を或ひと云ふ、
此の一事をすときは、則ち心の主を定めて此の一事に在り、と。
非なり。
蓋し一なる者は心なり、主一なる者は主とするに吾が心を以てするなり。
言はば其の心、常々内に主と為して、事に当りて在る所に在りて存す、他に適くこと或る無し。(知新日録)
朱子
敬は主一無適の謂ひと、其の言もっとも約にして明なり。
此の章の所謂、事を敬するがごときは、凡そ之を政事の間に施す、皆な是の心を以て之に応ず。
一事を為すが如きは、則ち一にして此事に専らす。
之を謹み、之を重んじ、其の表裏を察し、其の終始を慮り、審らかにして後に発し、発して必ず行ふ。
堅く執ること金石の如く、移らざること四時の朝令暮改ちょうれいぼかいせざるが如し。
軽く動きて易くうごく、此れ皆な事を敬するの謂ひにして、信、其の中に在り。
按ずるに、其の事を敬するは、便ち是れ民に信ず、而して分けて二事と為すは、蓋し敬は行を主とし、信は言を主とし、事は政に属し、信は令に属すなり。(通義)
蒙引
民に信あるは、民と信あるを謂ふなり。
凡そ號を発し令を施し、朝会刑賞、朝に行ひて夕に変じ、始め然りとして終りを然らざるにあらざるなり。
文王の国人と交はる、信に止するは、亦た是れ道にしたがふのみ。(蒙引)
楊時
上、敬せざれば則ち下、慢し、信ぜざれば則ち下、疑ふ。
下、慢にして疑へば事立たず。
事を敬して信あるは、身を以て之に先んずるなり。
易に曰く、*2
節するに制度を以てせば、財を傷らず、民を害はず、と。
蓋し用をすれば財を傷り、財を傷らば必ず民を害ふに至る。
故に民を愛するは必ず用を節するを先とす。
然れども之を使ふに其の時を以てせざれば、則ち本を力むる者、自ずから尽すことを獲ず。
人を愛するの心有りと雖も、人其の沢を被らず。
然も此れ特に其の存する所を論ずるのみ、未だ政を為す及ばざるなり。
苟くも是の心無くんば、則ち政有りと雖も行はれず。(楊時)
新安の陳氏
存する所とは政を為す者の心を謂ふ。
未だ政を為すの條目に及ぼさず、禮楽刑政紀綱文章の如きは、乃ち政を為すの條目なり。
楊氏が此の説は伊川に本づく。
伊川曰く、
事を敬するより以下は、其の存する所、未だ治具に及ぼさず、故に禮楽刑政に及ぼさず、と。(大全)
周易程伝
天地節有り、故に能く四時を成す、節無きときは則ち序を失ふなり。
聖人、制度を立て以て節と為す、ゆえに能く財を傷り民を害はず。
人欲の窮まり無きや、苟くも節するに制度を以てするに非ざれば、則ち侈肆ししにして財を傷り民を害ふに至らん。(周易程伝)
蒙引
民を使ふに時を以てすの時は、農隙の時を謂ふなり。
或ひと曰く、
春は耕し、夏はくさぎり、秋は収むるの時の如し、乃ち農功の時にして、農隙の時は非ず。
故に冬は乃ち之を役す、冬は農隙の時なり、と。
何ぞ必ずしも其の時事の隙に随ふと云はん。
又た歳の十一月には徒杠とこう成る*3
註に云はく、
十月には農工已に畢る、況や周禮に大司空を以て冬官と為すも、亦た農隙にして民を役す可きに取るなり。
大抵、畢の字と隙の字と同じからず、畢は是れ冬来まさに畢らんとす、隙は只だ是れ時を逐ふこと数日の間隙のみ。
春はしゅうし、夏は苗し、秋はかりし、冬は狩す、便ち是れ民を使ふに皆な時の隙に随ふなり。
朱子云はく、
古は四時のかり、皆な農隙に於いて以て武事を講ず、是れ四時皆な農隙有り、と。
而して杜氏の註の、左伝に所謂各々時事の隙に随ふは、證とするに足る有り。(蒙引)
勉斉黄
事を敬して信ありとは、敬と信と対すなり。
用を節して人を愛するは、倹と慈と対すなり。
此れ皆な国を治むるの要道、故に両句四事を言ひて、各々而の字を以て之を貫く。
民を使ふに時を以てするは、又た慈中の一事なり、故に独り後にく、但だ存する所を言ひて、未だ治具に及ばず、故に本を務むと曰ふ。(大全)
程子
此の言、至りて浅し。
然れども当時の諸侯、果たして此れを能くせば、亦た以て其の国を治むるに足れり。
聖人の言、至近と雖も、上下皆な通ず。
此の三言は、若し其の極を推さば、堯舜の治も亦た此に過ぎず。
常人の言の若きは、近ければ則ち浅近のみ。(程子)
新安の陳氏
近くは諸侯の国を治むるに足り、極には堯舜の治を致す。
言ふこと近くして致るところ遠きなり。(新安の陳氏)
朱子
事を敬して信あるは、是れ用を節し人を愛し、民を使ふに時を以てするの本、敬又た是れ信の本、之を要すれば本根すべて敬の上に在り。
若し能く敬すれば則ち下面許多あまたの事、まさ照管しょうかんし得て到る、古より聖賢堯舜より以来、便ちの敬の字を説く、孔子、己を修むるに敬を以てす、是れ最も緊要の処。(大全)
伊藤仁斎
千乗の国を治むる、其の事まことに難くして、其の功最も大なり、然れども此れを以て本と為さば、則ち亦た治め難き者無からん。
即ち孟子の所謂「事は易きに在り」の意なり。*4(論語古義)

語句解説

侈肆(しし)
ほしいままにすること。侈、肆ともに節度がない様をいう。
徒杠(とこう)
徒歩でわたる橋。
司空(しくう)
土地、民事を司る官名。また、周代六卿の一つ、後漢以後、隋・唐の三公の一つ。
冬官(とうかん)
土木を司る官職。周代の六官の一つ。
照管(しょうかん)
世話を頼む。注意する。
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  • *1理はみち、ことわり、おさめる、ただす、みがく意がある
  • *2易経・節卦彖伝
  • *3孟子・離婁下。公共工事の益を述べたもの。ここでは冬ならずとも民を使うことの例として用いる。なお、周暦の十一月は夏暦の九月、西暦の十月。
  • *4孟子離婁上
  • *5千乗は国として認められるだけの動員兵力を持つこと。一乗で一車、七十五人であり、即ち七万五千人を投入できることになる。千乗の国と述べるのは、経済・農政・外交、いずれも国として成り立っているものを指していうのであろう。ちなみに強大な国は万乗の国という。

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