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范曄

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後漢書-列傳[張王种陳列傳][6]

漢安元年、選びて八使を遣りて風俗を徇行せしむ。
皆な耆儒きじゅにして知名、多く顕位けんいを歴す。
唯だ綱は年少、官次は最微なり。
余人、命を受けて部に之き、而して綱、独り其の車輪を洛陽の都亭に埋めて、曰く、
豺狼さいろう道に当る、いづくんぞ狐狸こりを問はん、と。
遂に奏して曰く、
大将軍の冀、河南伊の不疑、外戚の援けを蒙りて、国の厚恩をなふ。
芻蕘すうじょうの資を以て、阿衡あこうの任に居り、五教を敷揚ふようし、日月を翼讃するあたはず、而して専らに封豕長蛇ほうしちょうだを為し、其の貪叨たんとうほしいままにし、好貨を甘心し、縦恣しょうしにして底無く、諂諛てんゆを樹てて、以て忠良を害す。
誠に天威のゆるせざる所、大辟たいへきを加ふき所なり。
謹みて其の君をみするの心の十五事を條す。
斯れ皆な臣子の切歯せっしせし所の者なり、と。
書を御し、京師、震竦しんしょうす。
時に冀の妹、皇后り、内寵ないちょうまさに盛ん、諸梁の姻族は朝に満ち、帝、綱が言の直なるを知ると雖も、終に用に忍びず。

現代語訳・抄訳

漢安元年、朝廷は各地の風俗を巡視するための八使という役職に当る者を選任した。
選ばれた者は高位を歴任した老年の高名な者ばかりであったが、唯だ一人、張綱は年若く、大した官位にも就いていなかった。
他の者達は任命された通りに任地へと赴いたが、張綱は一人で洛陽の都亭に車を停めて、云った。
山犬や狼に等しい大悪人共が政治の要路にのさばっている、どうして狐や狸に等しい小悪人の罪業を問題とできようか、と。
そして上奏して云った。
大将軍の梁冀や河南伊の梁不疑は皇后の身内という立場を利用して、国から厚恩を得ています。
彼等は相応しいともいえぬ資質を以て、国の支柱たるべき任に居り、人が守るべき父子の親や君臣の義といった教えを著わすこともせず、偉大なる人々を翼賛することもせず、専ら貧欲にして私欲ばかりを追い求め、財貨を得て満足し、その欲望は底が知れず、自分に阿諛迎合する者ばかりを用いて忠良の者を害しています。
誠に天威の赦せざる所であり、極刑を加えるに値するものでありましょう。
謹んで主君を蔑ろにする彼等の悪事十五条を上奏します。
これらは心ある者の憂慮している所であります、と。
書が上奏されると、都中が震撼した。
この時、梁冀の妹は皇后であった。
皇后は帝の寵愛を受けていたので、梁氏はこぞって朝廷の要職を占めており、帝は張綱の上奏文が真実であるとはわかっていたが、終に用いることはできなかった。

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出典
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語句解説

耆儒(きじゅ)
老儒。学問があって徳望の高い老人のこと。
顕位(けんい)
人目にたつ高い位のこと。
芻蕘(すうじょう)
草かりと木こりのこと。転じて身分の低いもの、庶民の意。
阿衡(あこう)
宰相のこと。殷の伊尹が任ぜられた官名で後の宰相の意。
敷揚(ふよう)
著わすこと。
日月(にちげつ)
太陽と月だが、聖人や賢人のたとえとしても用いられる。
貪叨(たんとう)
欲が深くむごいことをすること。叨はむさぼり食うの意がある。
縦恣(しょうし)
ほしいままにすること。わがまま。
諂諛(てんゆ)
媚び諂う者のこと。目上の者に取り入ること。
大辟(たいへき)
五刑の一。死刑。死罪。大きな刑罰。
切歯(せっし)
はがみする。残念がること。
震竦(しんしょう)
震悚。おそれること。
内寵(ないちょう)
君主に特に気に入られていること。
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