孝経[喪親]
原文
孝子之喪親也。哭不偯。禮不容。言不文。服美不安。聞樂不樂。食甘不旨。此哀戚之情也。三日而食。教民無以死傷生。毀不滅性。此聖人之政也。喪不過三年。示民有終也。為之棺槨衣衾。而擧之。陳其簠簋。而哀戚之。擗踊哭泣。哀以送之。卜其宅兆。而安措之。為之宗廟。以鬼享之。春秋祭祀。以時思之。生事愛敬。死事哀戚。生民之本盡矣。死生之儀備矣。孝子之事親終矣。
書き下し文
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孝子の
此れ
此れ聖人の政なり。[2]
喪、三年に過ぎざるは、民に終はり有ることを示すなり。[3]
之が
生けば
現代語訳・抄訳
孝なる者のその親の喪に服するや、哀しむこと声を失い、喪に
喪に服して三日にして食するの決まりを設け、親しき者の死によってその生を損なわせず、身はやせ細るともその性命を滅せざるように教えるは、聖人の
喪に服すること、三年を以て最長の期間とするは、民に喪に服することの終わりあるを示すためである。
死者の為に
生あらばこれに
生きる者の本分を尽くし、死生の義を備えて
- 出典・参考・引用
- 中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」70-78/88
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備考・解説
鬼は鬼神の鬼。
近思録には「鬼神は造化の迹なり」とあるように、形としてあらわれたるものの形迹をいう。
気は天に昇り、魄は地へと還る、この地へと還るを鬼といい、天に昇るを神といい、鬼は別名、精霊をいう。
鬼を祭るは諸物の精を祭ることであり、故にここにおいては死したる人の魄が地に還りて精となりたるを祭る。
また、春秋に祭祀して時を以て思うは、熊澤蕃山曰く、
神をまつる事は、しばしばする事をいめり。不敬に至らん事を恐れてなり、と。
天に昇りたる魂を頻繁に祭りて地に至らしめるは不敬なるが故に、時を以てこれを祭るのであろう。
なお、春と秋に祭るの意は、熊澤蕃山曰く、
春は陽の始め、秋は陰の始め、と。
生じて形となり、死して形を滅す、両時において異なること無く、造化の迹は両者同じ。
陰陽の始めに祭祀するは、生死において鬼神の最も盛んなるが故か。
死生の義は、その真の一なるをいう。
その
祖先を継ぎ、子孫に託すに至る、これを孝の至極という。
注釈
- 中江藤樹
- 曲礼に所謂、喪に居るの礼、
毀瘠 形 はれず、視聴衰へず、喪に勝へざれば乃ち不孝に比すと、是れなり。
是の一句以て聖人立法の薀 を明らかにす。(中江藤樹) - 中江藤樹
- 此れ上文の礼法礼位を指して而して言ふ。
政は本に因るの政なり、上文教の字と相ひ照応す。
此の一句、一に以て喪礼は聖人中和の妙にして而して他人の及ぶ所に非ざるを示す。
一に以て上を承け、下を起すの語と為し、而して全般皆な是れ聖語たるを明らかにするなり。(中江藤樹) - 程子遺書
- 喪は三年に止まるとは、何の義ぞ。
曰く、
歳一周すれば、則ち天道一変す、人心また随 ひて一変す。
唯だ人子 の親に孝する、此に至っては猶ほ未だ亡びず。
故に必ず再変に至って猶ほ未だ忘れず、又たこれに継ぐに一時を以てす、と。(程子遺書) - 中江藤樹
- 之を送るは、形を送って而して葬地に往くを謂ふ也。
人、禮して之に事ふ、既に葬り精を迎へて而して返るは、乃ち虞祭 なり。
奠 を易へ哭 を卒 へ、而して祖に附す。
喪を畢 って而して廟に遷す、始めて純 ら鬼神の禮を以て之に事ふ。(中江藤樹)
語句解説
- 哭偯(こくい)
- 声を発して泣く声が尾をひくこと。泣きじゃくる感じか。
- 棺槨(かんかく)
- 棺椁。ひつぎと外棺。棺は内棺で、槨は外棺の意。
- 衣衾(いきん)
- 衣と衾(ふすま)。衣服と夜着。着物と夜具。
- 簠簋(ほき)
- ともに食を盛る器。祭器。簠(ほ)は黍(きび)等を入れ、簋(き)は煮炊きしたものを入れる。
- 擗踊(へきよう)
- ひどく悲しむ様の形容。擗(へき)は手で胸を撃ち、踊(よう)は足で地をうつ。
- 宅兆(たくちょう)
- 墓場。墓地。宅は墓穴を意味し、兆は墓の外の囲いの意。
- 安措(あんそ)
- 安んじ置くこと。
- 宗廟(そうびょう)
- 国家のこと。また、祖先をまつるみたまや。
- 毀瘠(きせき)
- 喪に服して身が衰えること。悲痛のあまりやせ衰えること。
- 薀(うん)
- つむ、つつむ、ものの集まり。薀薀で深々とした様を意味するように、奥深くつつまったところを指す場合が多い。
- 虞祭(ぐさい)
- 埋葬後の祭り。死者の精霊を迎えてその平安を祈る礼。
- 奠(てん)
- てん、でん、てい。そなえる、まつる、さだめる。供え物をする。定めおく。すすめる、ならべる。多く神事、神意に準ず。
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