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熊沢蕃山

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孝経小解-應感[1]

先王、明王一なり、皆な古の聖主なり。
気象大にして、聡明、叡智照らさざる所なく、工夫細かにして、文理、密察、あまねからざる所なし、故に明王といふ。
天に父の道あり、地に母の道あり。
上に在りて覆育ふくいくの恵み大なるは、父の道なり、下に居て養生の恩厚きは、母の道なり。
天地の心は理なり、理に随ってたがふことなきは、造化を助くる道にして、天地につかふるの孝なり。
理にしたがふは順徳なり。
子、順徳ありて事ふるときは、父母安んじ、是れを仁人の父母に事ふるがごとく、天地に事ふること、父母に事ふるがごとしといへり。

人、一たび幼ならざるものなく、長ならざるものなし。
家に居て幼なる時は、父兄伯叔はくしゅくに順従し、長ずるときは、子弟してい、甥を愛慈あいじす。
国を出でて、我より上なる人に従ふは、家に居て習ひし幼道なり、我より下なる人を助くるは、家に居て長たる道なり。
家に居ての長幼、国に出でての上下、其の心は二あらず、其の道たがはず、故に有道の代は、長幼、順にして上下治まるなり。
天子と雖も幼にして父母あり、伯父、庶兄あり、学校にしては師あり、長者あり、成人に及んでも朝しては公卿こうけいの年、長ぜる人に従ひて君につかへ給ひ、身に孝弟こうていの道を行ひ給ふは、風化の本なり。

大君たいくん、天に事へて明らかに、地に事へてあきらかなれば、天地人三極の道立つなり。
故に造化のたくみを助けて、陰陽、和し、風雨、時あり、人、疾病なし、天時、順に、地道、したがふといへり。
天地の神明あらはるるなり。
人道、正しからざるときは、陰陽、和せず、風雨、時あらず、人、疾病多し、大風、大雨、地震、火災のわざはいしげし。
天地の化工かこうを害して神明あらはれず。

出典・参考・引用
中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」61-62/88
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