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熊沢蕃山

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孝経小解-廣要道[2]

禮に上下、尊卑の分ちありて、犯し凌ぐことあたはず。
故にかみたる人、危ふからず、しもたるもの乱れず。
漢の高祖、天下を一統して、いまだ安からず、禮式、定めて後、初めて天子の位の尊きことを知るといへり。
禮に、吉、凶、軍、賓、賀の五つあり。
吉は祭礼、凶は喪礼そうれい、軍は軍法、賓は主客しゅかくの往来、交接なり。
諸侯の天子にちょうするも、天子の、諸侯の国を巡狩じゅんしゅし給ふも、賓禮の大なる者なり。
夫婦の道も賓禮なり、妻は内に主たり、夫は外より入る。
賓主の交はりのごとくなるを、善なりとす。
賀は冠婚ならびに人の慶を賀するの類なり。
人道は禮を以て尊し、善を行ひ善に習ふの第一なり。
天下、礼譲を尊んで、争訴そうそを恥とす。
故にかみ、安く、しも、治まる、禮の徳より善なるはなし。

禮に本末あり、敬は禮の本なり。
実ありて後、禮文、学ぶべし。
楽にも本末あり、和は楽の本なり。
五倫、和睦わぼくするは、楽の本なり。
本を知りて後、楽文学ぶべし。
禮の用は和を貴しとす。
和なければ禮行はれず、敬なければ楽成らず。
故に禮楽たがひに其の根をなす、君子はしばらくもはなるべからず。

其の行ひを聞くもの、感通かんつうして歓喜せずといふ事なし。
義理の我が心を悦ばしむる者なり。

かみ、老を老として、天下、孝を興し、かみ、長を長として、天下、ていを興す、是れ一人を敬して千萬人悦ぶなり。
天下の人の多き、何ぞ千萬人のみならん、千萬にかかはるべからず、唯だ数多きをいふなり。
其のにてだに数しらず、況や後世、萬代ばんだいの人、其の風を聞いて悦ぶ者をや。
一心無窮にいたれり、故に要道といふ。

出典・参考・引用
中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」58-59/88
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語句解説

劉邦(りゅうほう)
劉邦。前漢の始祖。秦を滅ぼし、項羽と天下を争う。野人なれども不思議と人が懐き、「兵に将たらざるも、将に将たり」と称せられた。
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