熊沢蕃山
孝経小解-紀孝行[4]
天道、天下の為に一人を立て、一人の為に天下を与えず。
大君、諸国の為に諸侯を立て、諸侯の為に諸国を与えず。
しかるに位に驕りて、下をあなどりしのぎ、富に驕りて、好む事に財を費やし国人を困窮せしむる事は、天道にそむくなり。
天道、大君、諸侯の為に賢才を生ず、賢才は、多くは士庶人の中に生ずるものなり。
何ぞひとり高宗のみ、天の与ふる賢あらん、賢なきは求めざるの故なり。
君ならびに公卿、
此の三つの驕りを無道と云ふ。
無道にして、国、天下を
天命にそむく者なれば、終には亡ぶる理なり。
人の臣下と成りて、君を君とせず、上の法令を用ひず、国の大禁などを犯す事は乱るるなり。
其の平常、老いたるを、敬はず、知識ある人を師とせず、我が意を専らにするは、乱るるの本なり。
わざわひ其の身に及ぶ者なり。
同輩相ひ譲らずして上たらんことを欲し、芸能互ひに益をとらずして、我に自慢し人を謗り、何事も我慢を本として争ふときは
怒りて堪忍せざる者に逢ひては、相ひ刃して犬死す。
世間に是を喧嘩と云ふ。