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熊沢蕃山

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孝経小解-父母生績[3]

此の君子は有徳在位かねたる人なり。
一旦衆の心を得んがために、仁義をかるにあらず、故に然らずとのたまへり。
必ずしも覇者ならねども、愛敬の本心より出でざるは、匹夫と雖も仁義を借るの徒なり。
言斯可道よりは、仁義によりて行ふ事を示し給ふ。
言は在位の君子の嘉言なり、可道は天下に聞き伝へ道述するなり。
行は善行なり、国、転化の為に、よく子孫までも恩沢をこうむる慈行じこうなれば、万民、君上の善行を楽しむなり。
畢竟、億兆の父母たる仁心より発して、父母たる天職にかなふ言行なり。
聖賢とても下位に在りては此の益少し。
君上の言行は、大に天下の人心を感ぜしめて、風化の道となるものなり。
是れ信の徳なり。
たとへ徳いまだ賢に及ばずとも、志だに真実なれば此の益あり。
故に大君の真志は、思ひの外に風化すみやかなり。

徳は真志ありて心法を愛用し、心に得る所の道徳なり。
義は無欲にして、好む事もなく悪む事もなく、義と共にしたがふの義理なり。
尊ぶ可きは徳容、徳行なり、淵にしてはげし、威ありてたけからず、恭しくして安しといへるは徳容なり。
人の君としては仁に止まり、人の父としては慈に止まる。
君上は天下の君なり、父母なり。
故に行ひ給ふ事は皆な仁慈の徳行なり、君の徳行は仁政より大なるはなし。
天下の人の生死、安否は、大君一人にかかれり、故にたのむ所は君の仁義なり。
聚歛しゅうれんの臣あらんよりは、盗臣とうしんあらん、これ国は利を以て利とせず、義を以て利とすといへるは、民を子とするの義理なり。
其の外、言のたがはず、行のしるし有りて、衰へをすくひ無告むこくを助くる類ひは、仁中の義理なり。
然る時は、天下のひと、見る事、聞く事に付いて、君の徳義を尊信そんしんせずといふ事なし。

出典・参考・引用
中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」46-47/88
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孝経小解
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語句解説

聚斂(しゅうれん)
多くの賦税をとること。きびしく税金を取り立てること。
無告(むこく)
告げる無し。訴えるすべのない者。よるべのない者。
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