熊沢蕃山
孝経小解-父母生績[2]
人の子の
父母、是を生じ、君、是を養ふと雖も、家に居ては父母に養はる。
故に尊より視れば君なり、親より見れば父母なり、君親の道をかねて、
厚恩これより重きはなし。
親には孝愛うすくて、他人を愛するものは、徳愛にあらず、気合か又は欲のひく所かなり。
愛は徳に出づると雖も、本をすてて末におもむくは逆徳なり。
親には敬禮おろそかにて、他人を敬する者は、利禄のためか欲する事ありてなり。
敬は禮なれども、非なれば悖禮なり。
悖は逆なり、内、小人にて外、君子の類ひなり。
父母によりて発する徳性の愛敬は、
流れて
存する所、神なれば、過ぐる所化す、家を出でずして教へを国に為す者なり。
是を順を以てすれば則るといふなり。
仁義によりて行ふは王道なり、天下仁義の心を興すは則るなり。
仁義をかりて行ふは覇道なり、主とする所は利なり、故に民、則る事なし。
是れ逆なればなり。
斉桓、晋文は覇者のすぐれたるなり。
後世、諸侯、大夫士ともにうらやみしたひて、学びんことを欲す。
しかれども君子は用ひず。
心の存する所、自然の善にあらずしてなる所より、愛敬を行ひ、国、天下を得ると雖も、其の跡賤しうして子孫長久ならず、君子の
桓、文のごときも、得るものは才と力となり。
才力のみにては衆の心服せざる故に、仁義を借りて行ひ、衆の悦ぶようにす。
よくかりたるは大體よき者なり、後世は覇道にだも及ばざる事あり。
- 出典・参考・引用
- 中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」45-46/88
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語句解説
- 桓公(かんこう)
- 桓公。春秋時代の斉の君主。春秋五覇の一。菅仲を抜擢して斉の隆盛を築く。
- 文公(ぶんこう)
- 文公。春秋時代の晋の君主。名は重耳。内乱によって亡命して諸国を放浪し、後に重臣に請われて62歳で帰国。恵公を打倒して主の座につくと、わずか9年のうちに晋の混乱を治め覇業を達成した。斉の恒公と共に春秋五覇の筆頭に数えられる。
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