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熊沢蕃山

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孝経小解-聖治[5]

厳敬親愛は性の固有なり。
木火土金水の五行、あつまりて物となれり。
ことに人は五行の秀気しゅうきなれば、五気の神霊、明らかなり。
親愛は木気もくきの神の発なり、故に先づひらく。
天の造化も、木気、事を用ひて春を成し、年の始めなるがごとし。
故に聖人、父子相ひ親しむを本として、五倫皆な和睦する道を教へ給ふ。
厳敬は火気の神の発なり、禮は人道の美なり。
天の造化も、火気、事を用ひて夏を成し、物、盛んなり、禮は人道の盛んなるなり。
故に聖人、子の成人に随って、禮の大なる事を教へ給ふ。

聖人固有によりて政教を成し給ふのみならず、幼少より善にならはす事、日に久し。
されば、幼子、人の為すことを遊ぶわざにも真似する者なれば、里ごとに小学あり。
八歳の頃より、なしよき事を教ふるを、二三歳の頃よりも、おのづから見ならひ聞きならひ耳目にふるる事なれば、八歳、小学に入りて学ぶ事は、成しよき教へながら、ひとしお苦労なく覚ゆるなり。
読者なども、村里にてよむ声、家々にてよむ声、おのづから耳に入りて、八歳以後よむ時に苦労なし。
楽音は取り分け、成人の後、俄に聞き得がたきものなり。
母の胎内より、楽音にやしなはれ出生しては、二歳より、絲竹しちくの調、自然と耳に入る者は、十歳に成りて、調子をきかんと思ふ心だに付きぬれば一二月の間にも通ずるものなり。
聖人の政教は、急度きっと、教えの事を責め、制札せいさつに法度を出すにあらず。
善事を広く設け備へて、其の中に遊ばしめ、すすめ、強ひざれども知らず識らず、人民、善になる故に、厳粛を待たずして治まる者なり。

人民の本性によりて善をなさしむ、彼れ日々に善にうつりて知らざるなり。

出典・参考・引用
中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」43-44/88
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語句解説

糸竹(しちく)
絲竹。琴や三味線などの弦楽器と笛や尺八などの管楽器。和楽器の総称。
制札(せいさつ)
禁令の箇条。禁止事項を列挙した立て札。禁礼。
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