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熊沢蕃山

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孝経小解-聖治[2]

其の至貴しきたる人の行ふところ、孝より大なるはなし。
孝は徳愛の心なり、則ち、天地生々の理なり。
五倫皆な徳愛にあらざれば、和順わじゅんならず、是れ先王の孝を以て天下を治め給ふ所なり。

愛の至りを敬とす、故に徳愛は父を尊ぶより大なるはなし。

天道は至誠なり。
人の天につかふる、誠にあらざれば感ぜず。
孝子のしんに事ふる、至誠の心より生じて愛敬となる。
是れ天に事ふる道を以て、親に事ふるなり。
是を父を尊びて天に配すといふなり。

父を尊びて天に配する孝は、聖賢何もかはりなしと雖も、合莫ごうばくの孝にて跡の見るべきなし。
唯だ、周公のみ跡の見るべきあり。
故に其の人なりとのたまへり。

武王崩じ給ひて、成王幼年にして即位あり、故に周公、摂政たり。
郊天こうてんの祭禮は十一月冬至に、国門の外、南郊なんこうにおいてだんを築き、円丘をつくりて天をいのる。
周の始祖、后稷こうしょく木主もくしゅを南郊に出だし、天に配して祀り給ふ。
后稷はの臣、名は、帝舜、命じて民に百穀を播種はしゅせるを教えしむ。
大に生民せいみんに功あり、故に後世、后稷を以て五穀の神となす。
始めて封ぜられて諸侯となる。
周公、此の禮を行ひたまふ時分までは、千一二百ねんに及べり。
周の代の王業、千有余年以前の后稷に根ざせり。
来歳らいさい、造化の功用、冬至一陽来復に根ざすがごとし、故に配して祭り給ふ。
文王は周の大王の孫、王季の子、武王の父、名は昌、后稷より千有余差歳の孫なり。
かくのごとく久しき諸侯の国は衰ふる者なるに、却て天命を受けて新たなり。
大王、仁人なり、王季、賢人なりと雖も、文王聖徳なる故に、旧邦を興して天命新たなり。
周の王業、文王に至りて成就す。
冬至一陽より、春生じ夏長じ秋実りて、造化の功、成就するがごとし。
故に季秋きしゅうの月、上帝を明堂に祭りて、文王を以て配し給へり。
冬至は造化の本始なる故に、尊んで天と云ひ、季秋は造化の成就なる故に、親しんで帝と云ふ。
天と帝と二つにあらず。

出典・参考・引用
中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」40-41/88
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語句解説

合莫(ごうばく)
死者の心にかなう。
武王(ぶおう)
武王。周王朝の始祖。太公望を擁して殷討伐を成し遂げた。
成王(せいおう)
成王。周王朝二代目。開祖の武王の後を継いで即位。周公旦、太公望、召公等を左右に国をまとめ、次代の康王の治世と共に「成康の治」と讃えられた。
后稷(こうしょく)
后稷。舜の臣下で農事を司る。周の始祖である古公亶父の祖先であるともされる。
木主(ぼくしゅ)
位牌。神位。
舜(しゅん)
舜。虞舜。伝説上の聖王。その孝敬より推挙され、やがて尭に帝位を禅譲されて世を治めた。後に帝位を禹に禅譲。
播種(はしゅ)
種まき。
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