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熊沢蕃山
孝経小解-孝治[2]
大小の国、附庸までを合せ極めて数多き故に萬国と云ふ。
懽心は、上、下を子の如くし給はば、下、又た上を親の如く思ひて、天下、貴賤ともに心服するなり。
其の先王に事ふとは、父、帝の神に事へ給ふなり。
天に二つの日なく、国に二人の君なき理なれば、天子、大老になり給へば摂政あり。
太子とても、天子在世の間は、諸臣と交はり譲りて、臣の禮にて事へ給へり。
崩じ給ひて三年の後、位に即き給へば、御在世には君とのたまひ、神となり給ひては先王とのたまふなり。
大君の事なれば、天下の人を来たし、天下のものをあつめて、祭り給はんに不足なし。
然れども天下の人心、服せざる時は、先王の神、受け給はず、たとひ事物は、時によりて省略し給ひても、天下の懽心を得て祭り給はば、先王の神安んじ給ふべし。
天子の永く天下を失ひて、祭りを絶つとは、人心の服不服にあり。
故に懽心を得るを以て、天子の孝とし給ふなり。
鰥寡をあげて孤独をかねたり。
疲癃、残疾、顚連として告げることなきものの、皆な其の中にかねたり。
老いて妻なきを鰥と云ひ、老いて夫なきを寡と云ひ、老いて子なきを独と云ひ、幼にして父なきを孤と云ひて、皆な天下の窮民なり。
侮るは、是を忽せにして、憐れみ恵まざるなり。
村里にても、四民は、家なみの役をつとむることなりがたし。
里中の厄介とおもへば、屋数にも入れず、人のあなどる者なり。
故にひとしお君よりめぐみをたれて、村里の者あなどらざるようにしたまふなり。
無告の者だに然り、況や士民の国用を勤め人を養ふ者は、君の愛敬ふかし。
民は人の本なり、士は有徳のはじめなり、故に一命以上を士といへり。
古は諸侯の士も天子より爵位を命ぜられしなり。
今を以てみれば、民は農、工、商賈なり。
卿大夫をのたまはざるは、君を助けて、孝徳をなすものなればなり。
- 出典・参考・引用
- 中江藤樹訳、熊沢蕃山(伯継)述「孝経」34-35/88
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語句解説
- 付庸(ふよう)
- 大国に付属する国。大国の勢力下にある弱小国。
- 鰥寡(かんか)
- 老いて妻無き者と夫無き者のこと。
- 疲癃(ひりゅう)
- 病みつかれること。また、重病。
- 残疾(ざんしつ)
- からだの障害。
- 顚連(てんれん)
- 苦難。顚は頂点の意とも顚死の意ともされるが、いずれも連続すれば苦難である。
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