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北条氏綱

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五箇条の御書置[第三条]

侍は矯らず諂らはず、其の身の分限を守るをよしとす。
たとえば五百貫の分限にて千貫の真似をするものは、多分はこれ手苦労てくろう者なり。
其の故は人の分限は天より降るにあらず、地より涌くにもあらず。
知行損亡の事あり、軍役多年あり、火災に逢ふ者あり、親類眷属多き者あり、此の中一色にても其の身にふり来らば、千貫の分限は九百貫にも八百貫にもならん。
然るに斯様のものは、百姓に無理なる役儀をかくるか、商売の利潤か、町人を迷惑さするか、博奕上手にて勝取るか、如何にも出処あるべきなり。
此の者出頭人へ音物を遣はし、能々よくよく手苦労を致すに、附家老共目がくれ、これこそ忠節人よと賞むれば、大将も五百貫の所領にて千貫の侍を召仕候と、目見へよく成り申し候。
左候へば、家中斯様の風儀を大将は御好き候とて、花麗を好み、何卒大身の真似をせむとする故、借銀重なり、内証次第につまり、町人百姓をたおし、後は博奕に心を寄せ候。
左もなき輩は、衣裳麁相そそうなれば此度の出仕は如何、人馬小勢にて見苦しき候得ば此の御供は如何、大将の思召も傍輩ほうばいの見分も何とか思へども、町人百姓をたおし候事も、商売の利潤も博奕の勝負も無調法なれば、是非なく虚病きょびょうを構へまかり出でず候。
左候へば、出仕の侍次第々々にすくなく、地下百姓も相応に花麗を好み、其の上侍中にたおされ家を明け、田畑を捨てて他国へ逃走り、残る百姓は何事ぞあれかし、給人に思ひ知らせんとたくむ故、国中ことごとく貧にして大将の鉾先ほこさき弱し。
当時上杉殿の家中の風儀此の如く候。
よくよく心得らるべし。
或は他人の財を請取り、或は親類縁者少く、又た天然の福人も有りと聞く。
斯様の輩は五百貫にても六七百貫の真似は成べきなり。
千貫の真似は手苦労なくては覚束おぼつかなく候。
去ながら、是等も分限を守りたるよりは劣りと存せらるべく候。
貧なる者真似せば又々件の風儀に成るべければなり。

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語句解説

麁相(そそう)
粗相に同じ。
傍輩(ほうばい)
朋輩と同じ。
虚病(きょびょう)
仮病のこと。
上杉殿の家中の風儀(うえすぎどののかちゅうのふうぎ)
山内・扇谷上杉のこと。華美を好み風儀が乱れていた。
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