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度会氏

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神道五部書-宝基本紀[2]

天皇即位二十六年丁巳ひのとみ冬十一月、新嘗祭にいなめさいの夜、神主部かむぬしべ物忌ものいみ八十氏やそうじ等にしょうして曰く、
吾れ今夜、太神の威命を承りて、託宣たくせんする所なり。
神主部かむぬしべ物忌ものいみ等慎みておこたる無く、正明せいめいにして聞け。
人は乃ち天下の神物なり、須らく静謐せいひつを掌るべし。
心は乃ち神明の主なり、心神をやぶる莫れ。
神垂しんすいは祈祷を以て先と為し、冥加みょうがは正直を以て本と為す。
其の本誓ほんぜいに任せて、皆な大道を得せしむれば、天下和順し、日月精明、風雨時を以てし、国豊かに民安んず。
故に神人、混沌の初めを守り、仏法の息をしりぞけ、高台の上に置き、神祇じんぎ崇祭すうさいし、無貳むにの心に往き、朝廷を祈りたてまつらば、則ち天地龍国とともに運長く、日月風暦とともに徳遥かにして、海内かいだい泰平、民間殷富いんぷとならん。
おのおのおもへ、神を祭るの禮は清浄を以て先と為し、真信を以て宗と為す。
散斉さんさい致斉ちさいして内外潔斉けっせいの日、ねがはずいたまず、其の正を散失せず、其の精明の徳を致し、左物さぶつを右に移さず、兵戈へいかを用ゆる無く、鞆音ともねを聞かず、口に穢悪わいおを言はず、目に不浄を見ず、とこしなへに謹慎の誠を専らにし、宜しく如在じょさいの禮を致すべし。
法に背きて行はざれば、則ち日月を照見しょうけんし給ひ、文に違ひて判ぜざれば、則ち神明を記識きしきし給ふ。
総て神代、人心聖にして常なり、直にして正なり、然れども地神の末、天下四国人夫等、其の心黒く、有無の異名に分ち、心を走使そうしし、安んずる時の有ること無し。
故に心を臟傷ぞうしょうして、神を散じ去る。
神を散じ去らば、則ち身をうしなふ。
人、天地の霊気を受けて、霊気の化する所を貴ばず、神明の光胤こういんいて、神明の禁令を信ぜず。
故に生死長夜の闇に沈み、根国底国ねこくていこくなげく。
れに因りて皇天こうてんに代はり奉り、西天せいてんの真人、苦心を以て誨諭かいゆし、修善しゅうぜんせしむるを教へ、器に随ひ法より授けて以来、太神の本居に帰す。
託宣たくせん止み給ふ。
し節に応じて自ずから告示在らば、則ち大明だいめい戸を開き、形無く音顕はる。
或ひは小童女、茅葉ぼうようの上に昇立しょうりつし、須らく験言在るべし、みだりに狂言の類を信ずる莫れ。
天地に従ひ、陰陽をただし、神木を掌り、宜しく自正を存するべし。
是れ長生の術、不老の薬なり。
神主部かむぬしべ物忌ものいみ等、託宣たくせんする所、ねんごろに其の誠を致し、終に欺きたがふこと無くつつしつかへ、天神地祇ちぎ敬祭けいさいせよ、と。

出典・参考・引用
経済雑誌社編「国史大系」第7巻246/484
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語句解説

垂仁天皇(すいにんてんのう)
垂仁天皇。第十一代天皇。崇神天皇の第三皇子で名は活目入彦五十狭茅(いくめいりびこいさち)。
新嘗祭(にいなめさい)
宮中儀式の一つ。11月23日に新穀を神々に供え、これを食する祭儀。なお、古くは陰暦11月第2の卯の日に行われた。
神主部(かむぬしべ)
神職に携わる者。
物忌(ものいみ)
神事に携わる童子。
八十氏(やそうじ)
多くの氏族。
託宣(たくせん)
神託。神が人に乗り移って夢などに現れ、その意思を告げること。
静謐(せいひつ)
清らかでものしずかなこと。おだやかに治まること。太平。
神垂(しんとう)
神よりの垂示。神に近づくの道。本質的には神ながらで、そのまま神と一であろうか。
冥加(みょうが)
知らぬうちに受ける神仏の加護。自然にして得るところの恩恵。
神祇(しんき)
天の神と地の神。祇は地の神の意で、天神と地祇。
海内(かいだい)
国内、天下。古代中国では四方の海に世界が囲まれていると考えていたとされる。
殷富(いんぷ)
盛んで豊かなこと。富み栄えること。殷は盛んの意。
散斉(さんさい)
挙措動作をつつしむこと。表面にあらわれる行為をつつしむ物忌み。
致斉(ちさい)
心中をつつしむ物忌み。祭祀の前に清めること。
鞆音(ともね)
弓を射るときに、弦が鞆にふれて鳴る響き。鞆は左ひじにつけるあて皮で、弓を射るときにつるがひじに当たるのを防ぐためにつける。
如在(じょさい)
如才。眼前に神が在るかのようにつつしみかしこまること。転じて、形ばかり敬意をあらわす意から、十分な配慮が足らずに手抜かりのある意も持つ。
根国底国(ねこくていこく)
地底深くまたは海の彼方にあるとされる現世とは別の世界。あらゆる災いや汚れを押しやられる所、悪霊邪鬼の根源地。黄泉の世界。
西天(せいてん)
西方の天、空。また、西方浄土。または仏教で天竺(インド)を指していう言葉。
誨諭(かいゆ)
おしえさとす。
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