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孫武

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孫子-火攻[2]

凡そ火攻かこうは、必ず五火ごびの変に因りて之に応ず。
火、内に発せば、即ち早く之に外に応じ、火、発して其の兵の静なる者は、待ちて攻むる勿れ、其の火力を極めて、従ふ可くして之に従ひ、従ふ可からずして止む。
火、外に発す可くして、内に待つ無きは、時を以て之を発す。
火、上風に発し、下風を攻むる無かれ、昼風は久しく、夜風は止む。
凡そ軍は必ず五火の変を知りて、数を以て之を守る。

現代語訳・抄訳

およそ火攻めというものは、必ず五火の変によりて応じ、以て兵の助けと為す。
内に火の手があがれば、速やかに外より兵を動かしておびやかし、火の手があがるも、敵陣の少しも乱れずして静なれば待ちて攻めず、その火力の極まるを見定め、敵に乱れが生ずればこれに従い、生じざれば従わずして止む。
内に間者無く内応無く、外より火の手をあげねばならぬ場合には、時宜を見定めてこれを発す。
火の手をあげるには必ず風上より発し、風下を攻めず、昼に吹き出す風は久しく、夜に吹き出す風はすぐに止むことを心得るべし。
およそ軍というものは、必ずこの五火の変を知り、時宜に適うを以てこれを守るものである。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」165-167/183
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備考・解説

五火の変は、先段における火人、火積、火輜、火庫、火隊をいう。
いずれも火の手をあげて敵の乱れを待ち、これに乗じて撃つ、これ敵を虚にし味方の勢を増すという。
風上に発するは火の普く広がるを願えばなり。
風下を攻めざるは、一に味方の火に巻かれるを恐る、二に風上より追い立てられて必死となりたる敵を更に追い詰めるを恐る。
故に敵が逃れていく方向へと攻めいくべし。
軍争篇に曰く「囲師いしは必ずく、窮寇きゅうこうは迫る勿れ」と。
数を以て之を守るは山鹿素行曰く「火攻を用ひるも、火攻をふせぐも、すべて此の戒め有り、故に唯だ凡そ軍はと曰ふ」と。
敵を致し致されざるを思うべし。

山鹿素行曰く、
火は大に人の目を驚かし其の気を乱らしむるものなり。
然れども火の盛んなること静まれば、火はもと人を殺し人を破るの用法無き故に、人心乃ち定まるものなれば、其の図をのべざるごとく早く外より応じて、火の勢にたより、彼が気を奪い勝利を得るべきなり。
此の段、火、内に発すと云ふは、忍びを入れて火を内に放つに限らざるなり、彼が陣営、彼が城中に失火出で来ると云へども、火勢によって其の気を奪ふことは同意なり。
大全に云はく、変なる者は、敵人の驚乱の象と。
按ずるに変は必ず騒動の義に非ず、広く五火の変法を指すなり、と。
山鹿素行曰く、
内へ忍びを入れて火をつけ、内縁の間者を用ひて、内より焼き立つること叶わず、只だ外より焼動まで致すときは、右に云へる時日を考へて火を発すべきなり。
然らば内より火を放つの時は、時日同じからざるを知るべきなり、と。
廣註に云はく、
上文に火を内に発すと云ひ、此れ内に待つ無しと言ふ、所謂、五火の変なり、と。
山鹿素行曰く、
上風は風上なり、下風は風下なり、云ふ心は火をば風上より放つべし、兵を出だして之を打つは、風下を除くべし。
風下は火煙相聚まる処にして、彼が士卒必死の心なるべし、この故に風下を攻めず、風の吹き付ず、彼がのがれゆくべき方を攻むべしとなり。
動の定法を論ずるなり。
又た云ふ、我が兵を風下に立て攻むべからざるなりと。
当に風上より之を攻むべきなり、我が兵必ず煙火にくるしむことあるが故なり、直解之に従ふ。
講義に云ふ、上風火有らば則ち下風火無し、風、東よりせば其の火必ず西す、是れ西、上風為り、東、下風為りと。
愚案ずるに唯だ彼が兵をして死地為らしめず、我が兵をして反り焚かざらしむるなり、と。
山鹿素行曰く、
風は陽に属するが故に、昼吹き出せる風は久しくして、夜吹き出せる風は早く止むなり、是れ通法なり。
通法を立て、其の変法を推してしらしむべきがためなり。
凡そ風は四時によって其の司る風あり、其の所によって風の大小方角かわること多し、然れば此の理を指して、其の詳しき儀しれるものに尋問すべきなり。
梅堯臣云ふ、凡そ昼風は必ず夜止み、夜風は必ず昼止む、数まさに然るべしと。
此の説、本文と合はず、と。
山鹿素行曰く、
数は時日度数を云ふ、此の一句は火攻を用ひるも、火攻をふせぐも、すべて此の戒め有り、故に唯だ凡そ軍はと曰ふなり。
然れば風のあるとき天のかわける時分を謹み、間人をふせぎて火の発せざるごとく之を戒むべし、是を守と云ふなり。
又た云ふ、守は守候なり。
廣註に云ふ、星纏せいてんの度数、風と起り風と止むの数とを推し、守候して之を行ふと。
我れ人を攻め、亦た人の我を攻むるを防ぎ、消息事を行ふを以てなり、と。

語句解説

窮寇(きゅうこう)
窮地に追われた敵兵。追い詰められて窮した敵。
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