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孫武

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孫子-火攻[1]

孫子曰く、
凡そ火攻かこうに五有り、一に曰く人に火す、二に曰くに火す、三に曰くに火す、四に曰く庫に火す、五に曰く隊に火す。
火をるに必ず因有り、烟火えんか必ずもとよりそなふ。
火を発するに時有り、火を起すに日有り、時なる者は、天のかわけるなり、日なる者は、月のへきよくしんに在るなり、凡そ此の四宿ししゅくは、風起るの日なり。

現代語訳・抄訳

孫子が言った。
およそ火攻めに五あり。
人民を火攻めし、資材を火攻めし、輜重を火攻めし、倉庫を火攻めし、軍隊を火攻めす、これを五火ごびという。
火攻めを行なうや必ず起因すべき所あり、火のあがるや必ず発端たるべき所あり。
火の手をあげるに時あり、火の普く広がるに日あり。
時とは乾燥するの時宜を得るをいい、日とはへきよくしんの四星をいう。
およそこの四星は、必ず風起るの日である。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」163-165/183
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備考・解説

烟火えんかは火の気のあること。
一に資材、二に火器、三に内応者、いずれも火の発端となるべき所にして、あらかじめ備えねばならない。

山鹿素行曰く、
案ずるに、地形九地の二篇は、地を以て兵の助とすることを論ず、地形の篇末に天を知り地を知るのことを云へり。
此の篇は天の時によって兵を用ふるの要法を論ず。
其の事は火戦を述ぶると雖も、其の事実は天の時を以て要とす、火は専ら天の時によれり、この故に事は火にして其の要は時日を知るに在り。
然れば此の篇、天の時を以て攻戦を行ふことを論ず、この故に地形九地の次に此の篇をついづるなり。
孫子、五事を挙げて天を以て第二と為し、地を以て第三と為す、而して戦法を論ずるに至りては、地形天時皆な人事の末に在り。
後学の尤も之を熟読す可きなり、と。
蘇老泉曰く、
火攻は孫子にいて下策と為す、と。
王鳳洲曰く、
葉水心云ふ、火攻用間を以て之を考ふるに、疑ふらくは孫子亦た未だ尽さざる有るの書、と。
袁了凡曰く、
火攻の功さとし、戦はずして屈するの本意に非ざるなり。
故に此れを以て下策と為す。
此の篇、つぶさに火を以て攻をたすくるの法を道ふ、而して死者復た生く可からざるに倦々けんけんたり。
其の意、只だ国を安んじ軍を全うするの四字に在り、と。
山鹿素行曰く、
人を火すとは、在家宿城根小屋へ押し入りて火を放ち、人民を火に苦しましむるを云へり。
凡そ敵国へ働入ては、民屋を放火して、地形にささわりなからしむること、定まれる事なり、是を兵法に放火地焼など云へるなり。
呉起曰ふ、凡そ軍の居る、荒澤こうたく草木そうもく幽穢ゆうわい、焚きて滅す可しと。
或ひは敵おおく我れ寡く、力を以て勝ち難き者は、則ち其の人に火す。
諸葛武侯曰ふ、凡そ水に利する者は火に利ならず、火を縦ちて之を焚かば、片甲存する無しと。
積を火すとは、敵方へ忍びを入りて其のたくわへおく所の米穀薪芻しんすうをやくなり。
或ひは彼国地へ動入、其の蓄積の地を考へて、焼動の兵をすすめ、是をやかしむることあり。
輜を火すとは、陣中へ持ち出だしたる処の小荷駄を輜と云へり。
是れ又た焼動の兵をすすめ、あとの小荷駄をやき、又は忍びを発して、やくことあるなり。
庫を火すとは、庫は彼が財宝を入れおく蔵なり、是を焼かしめて其の愛する所を奪ふなり。
廣註に云ふ、車の衣裳を載せ道に在りて未だ止まらざるを輜と曰ふ、営塁すでに定まり、貨の舎蔵有るを庫と曰ふと。
隊を火すと云ふは、彼陣をはるの時、火箭を用ひ火焙烙を投げて、其の備へを焼くことなり。
賈林云ふ、隊は道なり、糧道及び転運を焼絶するなりと。
以上、是を五火と云ふ、と。
山鹿素行曰く、
因とは、天の時を考へ、内応の者をはかり、其の焼き立つべき地形にたよりある、皆な是れ因なり、と。
魏武註に云ふ、
姦人に因るなり、と。
廣註に云ふ、
風に因り、夜に因り、燥旱に因り、奸人の内応に因り、草莽そうもうに因り、備へ無きに因るなり、と。
山鹿素行曰く、
烟火えんかとは、火攻めに入る可きの火器を云へり、烟火えんかは焼具なり、烟は未火なり。
然れば火をうづみたくわへおくを云ふなり、火打付竹続松早付焼草火箭等なり。
此の如き諸色の具をもとより用意致さざれば叶わざるなり、素はもとよりなり。
一本烟火を烟人に作る、烟人は火をつくる役人のことなり。
通鑑に云ふ、烟人は即ち火盗なりと。
一人の勇捷の者を選び、言語服飾、敵と相同じ、ひそかに逐はると号し、便ち火輪を懐にして敵営に入り、その積聚を焚く、火発せば乱を承けて出づ。
廣註に云ふ、艾蒿荻葦薪芻膏油の類、皆な須らくあらかじめ備ふべしと。
兵法に火箭火鎌火杏火兵火獣火禽火盗火弩有り、皆な時に臨みて能く具ふる所に非ざるなり、と。
山鹿素行曰く、
へきよくしんは、二十八宿の中の四星なり。
此の四宿は風を好むの星なるが故に、月にこれかかるの日、必ず風あるなり。
星は火の精なり、日は水なり、風は水火のたたかふ処によって必ず生ず、この故にすべて二十八宿へ月のかかるときは、或ひは雨、或ひは風ふくことあり、此の四宿は風を好む星ゆえに、必ず風あるなり。
洪範に、星に風を好む有り、星に雨を好む有りと云ふ、是れなり。
宿は星宿なり、ほしのことなり、月これにやどるを云ふと云ふは非なり、と。
大全に云はく、
按ずるに天官書に曰ふ、月、へきよくしんに在れば、則ち三日を出でずして、必ず大風有り。
故に風来る十里、塵を揚げて葉を動かし、風来る百里、沙を吹き尾を飄し、風来る千里、力能く石を走らせ、風来る万里、力能く木を抜く、故に火必ず風を借りて以て其の焔を烈にす、と。
天文志に曰く、
此の四星風を好む、月此れに離る者は必ず風多し、常に鶏羽八両を以て、五丈竿上に掛け、風のりて来る所を占ふ、と。

語句解説

幽穢(ゆうわい)
雑草の茂った奥深いところ。
薪芻(しんずう)
薪とまぐさ。まぐさとはわらや草を束ねた牛馬の飼料をいう。
転運(てんうん)
輸送すること。
草莽(そうもう)
草むら。いなか。転じて、民間・在野・世間の意。
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