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孫武

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孫子-九地[5]

将軍の事は、静にして以て幽、正にして以て治。
能く士卒の耳目を愚にし、之をして知る無からしめ、其の事をへ、其の謀をあらため、人をしてさとる無からしめ、其の居を易へ、其のみちを迂にし、人をしておもんばかるを得ざらしむ。
ひきひて之と期す、高きに登りて其のていを去るがごとく、ひきひて之と深く諸侯の地に入りて、其の機を発す、群羊を駆るが若し。
駆りて往き、駆りて来たり、く所を知る莫し。
三軍の衆をあつめ、之を険に投ず、此れ将軍の事なり。

現代語訳・抄訳

将軍たる者は、沈着冷静にして測り難く、公明正大にしてよく治むを以て根本とすべし。
よく士卒の耳目を愚にして赤子の父を頼るが如くにし、その事を為すに易簡にして常あらず、その謀るところ万変窮まらず、故に人はこれを覚る無し。
その居るところ固執せずして事々変わり、その往くところ迂遠にして敵の先を得る、故に人はその真意を察するを得ず。
士卒を率いて戦を期すれば、高きに登りてその梯子はしごを去るが如く、士卒を往く所無きに投じ、士卒を率いて敵領深くに入り、事変に応じて士卒を用いれば、群羊を駆るが如くにす。
駆りて往き、駆りて来たる、士卒はその所以を知らず、赤子の如くに従うのみ。
大軍を率いてこれを往く所無きに投じ、以てその全力を出ださせるは、これ将軍の事である。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」154-156/183
関連タグ
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古典
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備考・解説

耳目を愚にして知る無からしめるは、手足の如くに使う所以。
その事を易えるは、その為すところ特別なこと有らずして常に簡潔明瞭、然れども常の如くにして常ならず、故に人は察する無し。
その謀るを革めるは、謀るところ万変窮まらずして同ずる無し。
事を為すには平易に為すも、その謀るところは深謀遠慮、故に人々は察するを得ず。
その居を易えるは、その居るところ必ずしも堅固を恃まず、平易を恃まず、常に衆人の地の利を知る所以の上を察する故に、衆目とは異なる所に居るに至る。
その途を迂にするは、迂遠にして遠からざるを察し、敵の先を得る、然れども衆人は覚らずしてその所以を知らず、故に将の慮るところを察する無し。
故に軍争篇に曰く「軍争の難き者は、迂を以て直と為し、患を以て利と為す」と。

山鹿素行曰く、
静はしずかなるなり、騒忽ならざるの貌なり、幽はふかくして測る可からざるなり、正は厳重なり、治は能く事物の條理をおさむるなり。
云ふ心は、三軍の将たるものは、静幽正治の四にあらざれば、其の下を下知すること能くす可からざるなり。
静なるものは沈黙にして幽ならず、静は幽を以て立つなり。
厳重は必ず事を省くが故に事物治まらず、正は治を以て行はる、此の四を以て将軍の事とする所以なり、と。
山鹿素行曰く、
士卒智慧を用ゆるときは、大将の下知を批判して下に妖言おこり、其の法令立たざるものなり。
三軍嬰児の如くなるときは之を用ふるに足る、故に彼が見聞する所通ぜざるが如くならしむるを云へり、と。
山鹿素行曰く、
易事は、軍に用ふるの事を度々仕しかゆるなり。
革謀は、一度用ふる所の謀を又た用ひざるなり。
此の如きときは此の心をとめ是を覚へしるすことあらず。
識は心にとめおぼゆるを云ふ。
張預に、先に行ひし事、旧く発せし所の謀、皆な之を変易し、人をして知る可からざらしむるなりと云ふ。
此のときは識も亦た知なり、と。
山鹿素行曰く、
平易なる所を捨てて険をかたどり、険を捨てて易による、是れ其の居を易へるなり。
其の途を迂にするは、近所を捨ててわざと遠きより進む、是れ皆な人の合点の行かざることにして、士卒更に大将を慮ること得べからざるなり。
凡そ知と識と慮と三段をわけていへり、と。
山鹿素行曰く
期は戦を約し其の刻限を定むることなり、梯は高く昇るの階なり。
此れ已むを得ざるの比喩、と。
山鹿素行曰く、
発機とは、変に応じそのきざしを振ひ作して、是を用ひる事、群羊を駆るに同じなり。
師字は直解大全は皆な将帥の字義と為す、師と士卒の義なりと云へり。
講義には、率然なりと注して、にわかにと云ふの心なり。
此の時は率然として戦ふときは、率然として諸侯の地に入ること此の如しと云ふの心なり。
然れどもひきいてと見て通ず、と。
山鹿素行曰く、
三軍羊の牧者に従ふごとくなれば、進退去留、皆な大将の下知に従わざる無きなり。
前篇、卒を視るに嬰児の如しと云ふに相通ずるなり、と。
山鹿素行曰く、
之を険に投ずは、往く所無きに投ずるなり。
案ずるに此の険字必ず地形の険をさすにあらず、良将の手段を以て備への設けよう備への立てようにより、三軍自然に高きに登りて其の梯を去るが如し、是れ乃ち険に投ずるなり、と。

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