孫武
孫子-地形[5]
吾が卒の以て撃つ可きを知りて、敵の撃つ可からざるを知らざるは、
敵の撃つ可きを知りて、吾が卒の以て撃つ可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。
敵の撃つ可きを知り、吾が卒の以て撃つ可きを知りて、地形の以て戦ふ可からざるを知らざるは、勝の半ばなり。
故に兵を知る者は、動きて迷はず、挙げて窮まらず。
故に曰く、
彼を知り己を知らば、
現代語訳・抄訳
味方の備え整いて撃つべき時が来たるを知るも、敵の状態を知らずして撃つは、勝敗半ばす。
敵の備え乱れて撃つべき時が来たるを知るも、味方の状態を知らずして撃つは、勝敗半ばす。
敵の備え乱れ、味方の備え整い、以て撃つべき時の来たるを知るも、戦を致す地形の戦うべきでない所を知らずして撃つは、勝敗半ばす。
故に兵法を知る者は、動けば必ず節に当たりて惑う無く、その挙動は万変窮まり無くして無形に至る。
故に古語にはこのように言っている。
彼を知り己を知らば、勝ち危からず、天を知り地を知らば、勝ち全し、と。
- 出典・参考・引用
- 山鹿素行注・解「孫子諺義」144-145/183
<< 前のページ | ランダム | 次のページ >> | |
備考・解説
撃つ可きと撃つ可からざるは虚実なり。
我れ実にして敵の虚を撃つ、これ勝ち易くして勝つの理なり。
敵味方の虚実を察して時宜の来たるを知り、戦を致す地の利を知る、これを全勝という。
山鹿素行曰く、
彼を知り己を知れば百戦して
重ねてここに勝、乃ち
天地を知るものは、兵法の全体に通ずる故に全勝あり。
全勝と云ふは、少しもかけたることあらざるなり。
彼を知り己を知るときは、人事残さざるなり、天を知り地を知るときは、天変地理残さず、是れを全勝といへり。
孫子、天を知り地を知ると雖も、地形を論ずることは詳らかにして、天を論ずることあらず。
此の篇の結句において天を知り地を知ると云ひて全勝を論ず。
一篇おわりて又た一篇の趣向を生ず、是れ九地篇の次に火攻を出だして天時を論ずるの故なり。
天の時、必ず火攻にきわまれるにあらざれども、戦に用ふるの法、火攻に天の時を多く用ゆるが故なり、と。
大全に云はく、
通章
二に曰く天、三に曰く地、孤虚旺相の理、尤も兵家の必ず究むる所、地を知りて天を知らず、終に未だ勝ちを全うするを獲ず、全字極めて意味有り、と。
<< 前のページ | ランダム | 次のページ >> | |