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孫武

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孫子-地形[4]

卒を視るに嬰児えいじの如し、故に之と深谿しんけいに赴く可し、卒を視るに愛子あいしの如し、故に之とともに死す可し。
愛して令する能はず、厚くして使ふ能はず、乱して治むる能はざれば、たとへば驕子きょうしの如し、用ふ可からざるなり。

現代語訳・抄訳

士卒を視るに、赤子の如くに将を頼るに至っておれば、深き谷に赴くとも之に従い、士卒を視るに、愛しき子の如くに将を想うに至っておれば、死に往くとも之に従う。
然るに士卒を親愛するに過ぎて教戒せず、厚く養うばかりで使用せず、規律を乱すも罰則せざれば、我がまま放題の子の如く、用いるに足らぬ様になる。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」143-144/183
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古典
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備考・解説

山鹿素行曰く、
士卒を親服するの道を云へり。
卒を視るとは、我が士卒をみることなり。
嬰児は、乳飲み子なり、人の始生を嬰児と曰ふ。
愛子は我が子の内にも第一の愛恵ある子を云へり。
云ふ心は、大将士卒をつかふこと嬰児の知あらざるが如く、如何様にも大将の下知に従ひ、進退皆な将の思ふ如くにつかいなす、是れ嬰児の如くなり。
此の如くつかふときは深谷へも共に赴くべきなり。
深谷は死地にして先のはかられずみへざる所なり、然れども大将の下知ある上は、先の死地にかまふことあらざるなり。
是れ下篇に士卒の耳目を愚にして、之を知る無からしめ、三軍の衆を聚めて之を険に投ずるなり。
又た其の親愛我愛子の如くならんには、子として父の難に死を軽んぜざるものあらず、故に之と倶に死して、之を遁るを思はざるなり。
此の段、上には知識を愚にして、将の指麾しきにまかするを云ひ、下には士卒を親愛するを言ひ、これと相和することをいへり。
士卒は将の下知次第に致すことを貴ぶ、是れ之を愚にするなり。
然らば士卒をみだりにいたし、是をうとんずるにあらず、其の親愛することは愛子の如きなり。
直解に、嬰児を以て嬰児を養ふが如しと為す。
其の説に従はば、則ち愛子の説と異ならず、且つ下篇の群羊を駆るが若きの節を通読して、併せて之を案ずべし、と。
山鹿素行曰く、
令は教練下知のことなり、厚とはねんごろにいたし養ふを厚くするなり、使とはそれぞれに用ひて彼を仕ふなり、乱とは作法をみだり、我がままをいたし欲しいままならしむるなり、治とは作法を正し礼を整へるなり。
云ふ心は、愛して教戒を存し、厚く養ひて其の使ふべきことによくつかい、心を欲しいままならしむるとも治むべきときにおさむる時は、士卒皆な大将の用たり。
愛して戒めず、厚くして使わず、乱して治めざれば、たとへば愛子のしゃを極めて人たるの道を失ふが如くなり。
この故に士卒ついに大将の用たらざるべし、と。
黄石公云ふ、
士卒、下すべくして驕らすべからず、と。
陰符経云ふ、
害は恩に生ず、故に恩は専ら用ふべからず、罰は独り行ふべからず。
専ら恩を用ひば、則ち驕りて使ふべからず、と。

語句解説

深谿(しんけい)
深谷。谿は渓。
驕子(きょうし)
わがまま放題の子。驕児。
教戒(きょうかい)
おしえいましめる。守るべきところを教えて戒めること。
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