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孫武
孫子-行軍[3]
凡そ地に絶澗、天井、天牢、天羅、天淊、天隙有り、必ず亟かに之を去りて近づく勿れ。
吾れ之を遠ざかり敵之に近づき、吾れ之を向かへ敵之を背にす。
軍旁に険阻潢井林木蒹葭翳薈有る者は、必ず謹みて之を覆索す。
此れ伏奸の所なり。
現代語訳・抄訳
およそ地に六害あり。
谷深くして水湛えるの地、水集まりて池となり溝となるの地、山川に挟まれ入ると出るに難き地、草木四方に茂りたる湿地帯、泥水溜まりぬかるむの地、地割れして道となり狭く通り難きの地、これに至らば速やかに去りて近づくなかれ。
吾は遠ざかり敵は近づき、吾は向かい敵は背にす、さすれば利あり。
軍の行く傍らに、険阻の地、水の溜まりたるくぼ地、森林、鬱蒼と茂る水草、背たけの高い草木が有らば、必ず謹みて幾度も索敵すべし。
これ伏兵、間者の潜む所である。
- 出典・参考・引用
- 山鹿素行注・解「孫子諺義」127-128/183
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- 古典
備考・解説
山鹿素行曰く、
是を六害と云ふ。
此の地形皆な水に付きての害あるの地なり。
澗と云ひ、井と云ひ、淊と云ひ、隙と云ふ、皆な水あって道絶へ足入るの処なり。
牢と云ひ、羅と云ふは、衆草ささわりて見にくき地なり、是れ又た卑下水あるの地たり。
前段川の事を云ふに付て、此の六害を論ずるなり。
六害の段、諸註甚だ多し、今、魏武杜牧が註によれり、と。
大全に云はく、
謹みて伏姦の所を覆す、敵を相るの法に似たり。
胡為ぞ而るを亦た軍を処すと言ふや。
蓋し以へらく絶澗等の地は、皆な軍の宜しく処すべからざるの地、軍旁に険阻潢井林木蒹葭翳薈有るに至りては、亦た地道の常、軍を此に処す、必ず謹みて之を覆索し、以て姦伏を防ぐを要す。
実に以て吾が軍を処するを安んずる所なり、と。
語句解説
- 絶澗(ぜっかん)
- 絶谷。深く険しい谷。遠い谷。
- 天井(てんじょう)
- 水が集まって、池や溝をなしているくぼ地。
- 天牢(てんろう)
- 山や川に挟まれ迫られ、入ると出がたい地。
- 天羅(てんら)
- 草木が茂る湿地帯。地形は低く、水がたまっている。
- 天淊(てんかん)
- 泥でぬかるみ、入れば足をとられるような地。水泥の地。
- 天隙(てんげき)
- 地割れ。地の切れ目の狭く通り難い地。連続ならざる地。
- 蒹葭(けんか)
- 水草。おぎとあし。共に水辺に生える草のこと。
- 翳薈(えいわい)
- 鬱蒼(うっそう)と茂っている様。草木が生い茂っていて状況がわかり難い様。
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