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孫武

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孫子-九変[3]

故に将に五危有り。
死を必するは殺す可し、生を必するは虜にす可し、忿速ふんそくなるは侮る可し、廉潔なるは辱しむ可し、民を愛するは煩はす可し。
凡そ此の五者は、将の過なり、兵を用ふるのさいなり。
軍をくつがへし将を殺すは、必ず五危を以てす、察せざる可からざるなり。

現代語訳・抄訳

故に将に五危有り。
死を美名と為して軽んずるの将は殺され、生に拘泥して身を守るに終始するの将は虜にされ、気短くして激昂するの将は侮り受けて無理を致し、廉潔にして名を好むの将は恥辱に惑いて忍ぶを得ず、民衆士卒を愛するの将は毀傷きしょう略奪に労して安んずる無し。
凡そこの五者は、将と為すに相応しからず、兵を用いるに災いとなる。
軍を敗亡させ、将を死に至らしめるは、必ずこの五危によることを察せねばならない。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」120-121/183
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古典
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備考・解説

利害の論に根本は同じ。
偏するは宜しからず、中庸の徳の至れる所以を察すべし。

山鹿素行曰く、
死を必するは殺す可しとは、勇にして死を軽んずるのあやまりなり。
謀を好まず、すすんで戦ふことを事とし、死を顧みず。
此の如き大将をば敵は謀を以て引き出し打ち死にせしむるに至る、是れ将のあやまりなり。
生を必するは虜にす可しとは、必死の裏なり。
大将、勇なくして身を大事にいたし、進んで戦ふことを好まざるときは、彼れ又た其の機を察す、ついに生きて虜にせらるべし。
忿速ふんそくなるは侮る可しとは、始計篇に謂ふ所の怒らして之をみだすなり。
大将いかりふかく気短にして急速なることを好むときは、彼れこれを侮りて無理をなさしむべし。
廉潔なるは辱しむ可しとは、いさぎよきを事とし、名を好む大将は、辱しめて其の心をみだすべし、廉とはかどある心なり。
民を愛するは煩はす可しとは、軍士を愛する事ふかく、兵卒をいたわること専らならん大将は、わざとこれを煩わし疲らすべし、と。
通鑑に云ふ、
民を愛する者は、惟だ殺傷するを恐る、或ひは其の郷村をおかし、其の牧畜を虜せば、彼れ必ず往きて救はん、是れ之を煩はすなり、と。
山鹿素行曰く、
凡そ必とするときは変に通ぜざるなり。
此の篇は変化一定ならざることを之れ論説す。
大将此の如く必と定め一偏に心をもつときは、変ついに通ず可からざるが故に変の行はざるは、此の五危によれりと謂ふ可きがため、五危を以て之を結ぶなり、と。
大全に云はく、
死を必する者は勇にして戦うなり、しかれども或ひは殺す可し。
生を必する者は其の勝ちをねがふなり、而れども或ひは虜にす可し。
忿速ふんそくなる者は敵を殺すの怒に近からんか、而れども或ひは侮る可し。
廉潔なる者は美事なり、而れども或ひは辱かしむ可し。
民を愛する者は仁徳なり、而れども或ひは煩はす可し。
此れ蓋し庸常の将を言ふ、一を守りて変を知らざる者、此の如し。
若し変通の道を知らば、自然にして強を加ふる所有り、弱を用ふる所有り、剛を施す所有り、柔を設くる所有り、事必ず其の可否を量り、心必ず利害を雑へ、動きて迷はず、而して挙ぐるに窮まらず。
之を殺し之を虜にし之を侮り之を辱しめ之を煩はすと云はんや、と。

語句解説

忿速(ふんそく)
短気。
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