1. 孫武 >
  2. 孫子 >
  3. 軍争 >
  4. 1
  5. 2
  6. 3
  7. 4
  8. 5
  9. 6
  10. 7

孫武

このエントリーをはてなブックマークに追加

孫子-軍争[1]

孫子曰く、
凡そ兵を用ふるの法、将、命を君に受け、軍を合はせ衆をあつめ、和を交へて舎す、軍争より難きは莫し。
軍争の難き者は、迂を以て直と為し、患を以て利と為す。
故に其のみちを迂にして、之をみちびくに利を以てし、人に後れて発し、人に先だちて至る、此れ迂直の計を知る者なり。

現代語訳・抄訳

孫子が言った。
凡そ兵を用いるの法は、将の君命を受けるや、軍勢を統べ、輜重しちょうを備え、然る後に敵味方相対して陣を張り、以て勝利を争う。
その難しきこと、軍争に過ぎたるは無し。
軍争の難きとは、迂を以て直と為し、患を以て利と為すをいう。
故にその道を迂遠にして敵に利をみせ、以て人に後れて発して人に先だちて至るが如きを致す、これを迂直の計を知る者という。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」102-104/183
関連タグ
孫子
孫武
古典
<<  前のページ  |   ランダム   |  次のページ  >>

備考・解説

迂直の計を知りてこれを以て勝利を争う、これを軍争という。
敵味方死力を尽して勝利を目指す故に、勝利を得ることは難し。
ましてや迂直の計に及んでは、互いに人を致し人に致されざるを謀る故に、尋常には為し難し。
ただ無形にして測り難きを以ての故に、これに至るというべきか。
無形は山鹿素行のいう「手舞ひ足蹈むことを知らざるときは、自然に無形にして其の形迹之れ見るべき無し」に尽く。
道を学ぶにおけるも古人曰く「手舞ひ足蹈むことを知らざるの心、自然にして来るものなり」と。
その深きところ、相通ずというべし。

山鹿素行曰く、
争は勝ちを争ふの義なり。
形勢虚実の理を詳らかにし、戦法に通じて、而る後に対陣を為し、勝利を争ふべきなり。
この故に軍形兵勢虚実の次に軍争を置くなり、と。
山鹿素行曰く、
一説に、此の篇の争は、地の利を争ふの事なり。
故に一篇の内、専ら地利の迂直、地形のことを之れ論ず。
武経通鑑此の説に従ふ。
然れども地利とのみ見るべからざるなり。
勝利を争ふと云ふときは、地利亦た其の中に在るなり。
両軍相ひ戦ふのわざ、専ら地利によることなるが故に、軍争九変行軍皆な地利を論ぜるなり、と。
山鹿素行曰く、
軍は士卒にかかり、衆は兵衆にかかる。
合とは士卒を和しよく一致せしめ、それぞれに分数して約を定め、合図をきわめ、其の志を一ならしむるなり。
聚とは其の不足をただし、用を国に取りて、雑人小荷駄武具雑具等にいたるまで、事のかけざるごとくならしむることなり。
衆と云ふ内に兵衆の義もろもろの事をふくめり。
和は軍門を云ふ、古来より然り。
軍は和を貴ぶが故に、軍門をも和と称するなり。
周禮に出でたり。
交とは彼と我と陣を相ひ対し門を交へ居るなり。
或る説に、交和は軍門に非ず、上下相ひ交和の義なり、呉子の国に和せざれば、以て軍を出だす可からず、軍に和せざれば、以て陳を出だす可からずの義なりと注す。
然れども軍を合はすの合字、既に和の字の心をふくめり。
和を交へて舎すると云ふときは、軍門の義とみて可なり。
舎はとどまり陣するなり、と。
武経通鑑に云ふ、
敵と同じく戦地に処りて争ひて地利を得んと欲す、至難と謂ふ可し、と。
山鹿素行曰く、
近くして遠きを示すは、迂以て直と為すなり。
用ひて之に用ひざるを示すは、患以て利と為すの心なり。
例へば遠く周りて行くごとくみせて、彼に其の方を防がしめて、引きちがへて直なる道より行く、是れ迂以て直と為すなり。
又た彼れ直道を堅く守るときは、我れ又た兵を以て其の直道を守らしめて、実は兵を迂曲の道よりすすめ、其の裏に出で、其の後を絶つ、是れ又た迂を以て直と為すなり。
我が兵の弱を示し、困労を示し、是れを以て利を為すは、患を以て利と為すなり。
或ひは迂曲の道を越え往かんことは、我れ患なりと雖も、変じて是れを利とするは、皆な是れ患を以て利と為すなり。
此の段、迂直は地形道路の迂直について之れ云ふと雖も、其の実を推すときは、諸事の謀、皆な然り。
上手は周り遠きことを為して、却って直たり、患を用ひて却って利あり、皆な是れ軍の謀なり、と。
山鹿素行曰く、
凡そ我が勝つべからざるを為すは、迂なり。
蓋し兵を用ふるの害を知るは、是れ患なり。
勝つべからざるを為し、故に其の勝つや全し、是れ迂を以て直と為すなり。
兵を用ふるの害を知り、故に兵を用ふるの利を知る、是れ患を以て利と為すなり。
謀らず整へずして戦場に出るは、人に先んずるが如し、能く謀りて赴くは、人に後れるが如し。
然れども、計らずして人に先んずる者は、先につかへて事足らずして、戦を全くすること能はず。
能く謀りて、而して人に後れる者は、先にてつかふることなく、事の足らざることなし。
是れ人に後れて発し、人に先んじて至るなり、と。
全書に曰く、
本と直なり、而して之に示すに迂を以てす。
本と患なり、而して之に示すに利を以てす。
惟だ能く迂を以て直と為し、患を以て利と為さば、則ち其の発するや、常に人に後れて、其の至るや、常に人に先だつ、と。
山鹿素行曰く、
今案ずるに戦法に先後あり、先んじて戦地に処るを佚すとせば、人に後れて発するは労するの理なり。
此の篇に人に後れて発し、人に先んじて至ると云へり。
云ふ心は上兵は先んじて勝つの利を失はず、後るるときは後れて勝つことの利を失はず、この故に先後ともに皆な利あり。
謂ふ所の是れ無形なり、と。

語句解説

輜重(しちょう)
武器や食糧などの軍用物資のこと。
<<  前のページ  |   ランダム   |  次のページ  >>


Page Top