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孫武

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孫子-虚実[2]

能く敵人をして自ら至らしむる者は、之を利すればなり、能く敵人をして至るを得ざらしむる者は、之を害すればなり。
故に敵、いつせば能く之を労し、飽かば能く之をやし、安んぜば能く之を動かす。
其の趨かざる所に出でて、其のおもはざる所に趨く。
千里を行きて労せざる者は、人無きの地を行けばなり、攻めて必ず取る者は、其の守らざる所を攻むればなり、守りて必ず固き者は、其の攻めざる所を守ればなり。
故に善く攻むる者は、敵其の守る所を知らず、善く守る者は、敵其の攻むる所を知らず。
微なるかな微なるかな、形無きに至る、神なるかな神なるかな、声無きに至る、故に能く敵の司命と為る。

現代語訳・抄訳

よく敵を誘い出すに至らしめるのは、之を利するからであり、よく敵を留めるに至らしめるのは、之を害して防ぐからである。
故に敵が万全なれば之を疲弊させ、戦意充足すれば之を削ぎ、安んじてよく治まれば之を動かしてよく乱す。
その赴かざる所に出で、そのおもわざる所に赴く。
千里を行きて労せざるは、人無きの地を行くからであり、攻めて必ず取るに至るは、その守らざる所を攻めるからであり、守りて必ず固きに至るは、その攻めざる所を守るからである。
故に善く攻める者に対すれば、敵はその守るべき所を知らず、善く守る者に対すれば、敵はその攻めるべき所を知らず。
隠微にして形無きに至り、玄妙にして声無きに至る、故によく敵の司命と為るのである。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」92-94/183
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古典
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備考・解説

守らざる所を攻め、攻めざる所を守るは孫子軍形の「九地の下に蔵し、九天の上に動く」に通ず。
無形なるが故に、敵は守る所を知らず、攻むる所を知らず、故に為す術なくして敗れる外無し。
無形の真は、人智の及ばざるところ、察して通ずるの道、千里を行きて労せざる所以なり。

山鹿素行曰く、
利害は兵の用なり、利を与ふれば彼れ必ず来り、害を為せば彼れ来たらず、是れ常法なり。
旧説皆な云ふ、其の交援を絶ち、其の巣穴を掃き、険を守り埋伏するの類なりと。
是れ又た通ずるなり、と。
山鹿素行曰く、
能く守ると云ふは、守りて攻其の虚を撃つの心、定まりたる心得なり。
攻めざる所は彼が虚なり。
たとえ是を攻むると雖も、攻めるもの怠りあるか、其の将臆して謀のつたなきときは、其の場をみきり守兵守法を以て彼が虚を撃つ、これ其の攻めざる所を守るなり。
云ふ心は守の必ず固きは、彼が攻むる能はざるの所をよく守る故なり。
又た云ふ、未攻の時、彼が気を挫き、其の先を取って寄手攻むること叶わざるが如くならしむるを云ふ。
又た云ふ、彼れ攻撃の術を催すとき、我れ早く其の機を察して、其の謀を伐つを、是れ其の攻めざる所を守ると云へり。
いずれも守法に用ふるべきの術なり。
守攻は必ずしも城の守攻に之限るべからず。
主は守なり、客は攻なり、と。
張預曰く、
善く守る者は、九地の下に於いてし、敵人をして之を能く測る莫からしむ。
之を能く測る莫くんば、則ち吾の守る所の者は、乃ち敵の攻めざる所なり、と。
山鹿素行曰く、
按ずるに、趨かざる所、おもはざる所、人無きの地、守らざる所、攻めざる所、皆な是れ彼の虚なり。
趨きて趨かざる所有り、おもひて意はざる所有り、人有りて人無き所有り、守りて守らざる所有り、攻めて攻めざる所有り、と。
山鹿素行曰く、
我れ形ありと雖も本と定形無し、我れ声ありと雖も元と常声無し。
この故に我が致す所、常に彼が意外に出でて、ついに之を取るべからず、ついに之を聞くべからず、日月水火の形ありて取るべからず、風雷の声ありて測るべからざるがごとし。
是れ用兵の微妙不測に至りて、彼いかんともすること能はざるなり。
この故に敵の司命と為すなり、と。
山鹿素行曰く、
案ずるに、無形は攻撃にかかり、無声は守備にあたれり。
無形無声、元より守攻へ一定せる論にあらずと雖も、わけて之を謂ふ、則ち攻に形無く、守に聞無きなり。
無形は九天の上に動くなり、無声は九地の下に蔵するなり。
無形は動きて測るべからざるなり、無声は守りて測るべからざるなり、と。
山鹿素行曰く、
微乎微乎は、深く能く其の形を隠すを言ふなり。
所謂、吾れ実にして敵をして視て以て虚と為さしめ、吾れ虚にして敵をして視て以て実と為さしむ。
誘ひて之を惑はし、形無きに至る者、是れ隠の精妙、敵をして尤も其の虚実を見るを得ずして、能く之を測度する莫からしむるなり。
神乎神乎は、深く其の能く変化するを言ふなり。
敵本、吾れ変ずるに虚する所を実にし、吾れ変ずるに飽する所を飽にし、吾れ変ずるに労する所を佚にし、声無きに至る者、変化の妙、言語を以て尽くすべからざるを言ふなり。
能く此の如くならば敵の性命生殺、皆な我に由る所以なり。
故に敵の司命と謂ふ、と。
大全に云はく、
三軍の司命為りと曰はずして、敵の司命為りと曰ふ、此れ正に是れ善く攻め善く守り、神化し測る莫きに至るの効なり。
兵を用ひて敵人の命、皆な我に司るに至る、必ず其の実を実にし虚を虚にし攻を攻め守を守るの妙、だ我の握る所以の者有るのみ。
故に曰く、形無く声無し、と。

語句解説

司命(しめい)
生殺の権力を握るもの。人の寿命をつかさどる神の名。
敵本(てきほん)
目的を隠して他に目的があるように見せかけて行動すること。敵は本能寺にあり、から出た言葉とされる。
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