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孫武

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孫子-兵勢[4]

紛紛紜紜ふんふんうんうん闘乱とうらんして乱る可からず、渾渾沌沌こんこんとんとん形圓けいえんにして敗る可からず。
乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は強に生ず。
治乱は数なり、勇怯は勢なり、強弱は形なり。
故に善く敵を動かす者は、之に形すれば、敵必ず之に従ひ、之にあたふれば、敵必ず之を取り、利を以て之を動かし、本を以て之を待つ。

現代語訳・抄訳

紛紜ふんうんとして散在す、闘い乱れるも乱れず。
渾沌として混在す、かたち一所に集うも敗れず。
乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は強に生ず。
治乱は時に変じ、勇怯は勢に変じ、強弱は形に変ず。
故に善く敵を動かす者は、形を変じて之を誘い、以て敵は必ず之に従がい、利をみせて之に与え、以て敵は必ず之を取る。
利を以て之を動かし、本を以て之を待つ、故に勝つべくして勝つに至るのである。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」85-87/183
関連タグ
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古典
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備考・解説

本ありて散在し、本ありて混在す。
治にして乱、勇にして怯、強にして弱の如し。
故にその乱れは乱れに非ず、その敗れは敗れに非ず。
治乱勇怯強弱の一実たる所以なり。
治なるとも乱となり、勇なるとも怯となり、強なりとも弱となる。
静なれば変ずる適わず、故に善く敵を動かす者は、変じて之を動かし、利をみせて之を誘う。
自らの形を変じて弱と為し、敵に利を与えて乱と為し、然る後に本を以て之を待つ。
本とは乱れて乱れず、敗れて敗れざるの根本有るをいう。
故に良将は道を修め、法を保ちて、表裏相応じ、以てこれを統ぶ。
故に孫子の所謂「自保して全く勝つ」を得るのである。

山鹿素行曰く、
兵の陣、聚散分合の二あり。
善く兵を用ふるものは、みだれても乱れざる所をふまえ、圓にして敗れざる所をふまえ、この故に陣の形、兵士の體、四方に散在して、前後左右よりかかって多方之を誤る。
此の時に望んでは、士卒悉く戦ひ乱る。
然れども分数形名相ひ備へて、奇正を用ひ、其の虚実をはかるが故、戦ひ乱れたりと雖も、彼れ我を乱し得ず、紛紛紜紜たれば必ず乱れやすし。
乱れざるが如くと云ふときは紛紛紜紜たらず、是れ大體の兵を用ゆるものなり。
孫子が兵を説くに至りては、乱るべき時、何等とみだるると云へども、彼れ我を乱し得ざるに至る、是れ善の善、上兵の勢なり。
又た渾渾沌沌と陣を一所にまとめ圓にいたして散在せざるときは、猶ほ以て何方を隙ありと見る可き所あらざる故に、敵是れを敗る可からざるなり。
以上、兵を用ふるの道、散してみたるると、圓にしてまとふと両般に出でざるが故に、此の二を以て戦法並びに陣法を相ひ論ずるなり。
乱る可からず敗る可からずとは、彼れ我れを乱るを得ず、彼れ我れを敗るを得ざるなり。
案ずるに紛紛紜紜は進みて戦ふの貌、かれをつつみてうつの體なり、渾渾沌沌は一所にあつまりて、彼を待つの貌なり。
懸待の両義あり、と。
李衛公云ふ、
紛紛紜紜、闘乱して法は乱れず。
渾渾沌沌、形圓にして勢は散せず。
所謂、散して八を成し、復して一と為る、と。
大全に云はく、
紛紛紜紜は旌旗せいきを指して言ふ、闘ひ乱るるに似るなり、而して中に統轄有りて乱す可からず。
渾渾沌沌は車騎を指して言ふ、其の形特員なり、而して分合法有りて敗る可からず、と。
又た云はく、
紛紛紜紜の二句、正に是れ奇正の変、げて窮む可からざるの処、乱す可からざるは勢の整へるなり、敗る可からざるは勢の全きなり、と。
山鹿素行曰く、
よく治むる処より出でる乱は乱れて乱れざるなり、真勇より出でる怯は怯に非ざるなり、真強より出でる弱は弱に非ざるなり。
この故に戦ひ乱るるときは乱るるごとくなれども、彼れ之を乱すを得ざるなり。
一所に集りて円かなれば、彼れ我を見て恐れて一所にあるか、弱兵故にひそまって出でざるかと思う可し。
然れども勇強より生ずる怯弱ゆえに、彼れ我を破ることを得ざるなり。
治乱は紛紛紜紜にかかる、是れ進みて戦ふの貌なり、勇怯強弱は、渾渾沌沌にかかるなり、是れ待ちておくるるに似たり。
治乱数は、士卒兵衆の治乱は、分数によるなり、分数なる者は、発端に出る所の兵を治むるの道なり。
勇怯勢は、勇はいさみ怯はおくるるなり、いさむとおくるるとは、いきおいおくれるによることなり、是れ乃ち勢なり。
強弱は士卒つねに手足を練り、進退を節にして、能く内習を教練するの形によることなり。
然れば積水の如くならしむるは、形なり。
激して石を漂はすに至るは、勢なり。
若し水すくなきときは形よわく、これをさくるとも物を漂はすに至るべからず、是れ形と勢となり、と。
山鹿素行曰く、
良将は人を致す、人を致すときは、彼をして我の思ふ如くにつかわざれば、勝ちを得ること能はざるなり。
されば彼を引き出したき時は、我れ其の形を為せば、彼れ乃ち出でて戦ふ、彼を引きとらしめたき時は、我れまた其の形を為すときは、彼れ則ち退く。
彼が往来進退、皆な我の形するに従ふ、これ人を致すの道なり。
上兵はおもう如くに敵をつかう、古今其の例多し、と。
山鹿素行曰く、
敵を動かすことは、彼に利をみせざれば動かず、彼動くと云ふとも我に本を正しうするの処あらざれば、全く勝つことを得べからざるなり。
本無くして唯だ利を与え彼を誘ふは危にして正しからざるなり。
本とは何ぞ、乃ち正兵なり。
分数形名を整へ、奇正を詳らかにして、而る後に彼を動かすの術を用ゆ、是れ利以て之を動かし本以て之を待つなり、と。
大全に云ふ、
本字は却りて是れ正兵、奇を出だすの本為り。
上文に乱は治に生じ、怯は勇に生じ、弱は強に生ずるを観れば、則ち乱れず怯ならず弱ならざる者は、本なり。
奇を以て敵を誘い、正を以て敵を待つ、兵法の妙、つぶさに此に見ゆ、と。

語句解説

紛紜(ふんうん)
複雑に入り混じる様。
旌旗(せいき)
旗印のこと。色鮮やかな旗。
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