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孫武

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孫子-兵勢[3]

激水のはやき、石をただよはすに至る者は、勢なり。
鷲鳥の疾き、毀折きせつに至る者は、節なり。
故に善く戦ふ者は、其の勢は險に、其の節は短く、勢は弩をるが如く、節は機をはなつが如し。

現代語訳・抄訳

激水の奔流して石を動かすに至る者は、勢である。
鷲鳥の飛翔して獲物を仕留めるに至る者は、節である。
故に善く戦う者は、その勢を盛んにして弩を張るが如くに之を保ち、その節を失わずして時機得るを以て之を撃つ。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」84-85/183
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古典
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備考・解説

節は急所なり。
激水がいかにはやくとも、石を動かすにまで至るは勢を得ればなり。
鷲鳥がいかにはやくとも、獲物を仕留めるに至るは節を知ればなり。
勢は利に因りて権を制す、制するに之を速やかに決するは、節に及べばなり。
勢だけなれば失うところ多し。

張昭兵法に云はく、
石を漂はすは高下の形を謂ふ、鷲鳥の物をつ、能く其の遠近を節するなり、と。
通鑑に云はく、
水、豈に能く石を漂はさん、其の積の満盈まんえいに因り、たちまち其の堤岸を決すれば、即ち其の勢ひ険急衝激、大石と雖も、亦た能く漂搏ひょうはくするなり。
此れ吾が兵、道を修め法を保ち機に応じて出でば、堅陣と雖も亦た能く之を破るの勢に喩ふ、と。
山鹿素行曰く、
良将の戦を為すことは、勢はげしくして之を拒む可からず、其の節を近くして力を費やさず、勢を盛んにして間近くふみつめ戦を為す。
是れ其の勢険に、其の節短きなり、と。
太公曰く、
はやきこと流矢の如く、撃つこと機を発するが如し、と。
孫子遺説に云はく、
或ひと問ふ、其の勢の険なる者は、其の義、明にし易し、其の節の短き者は、其の旨、安くに在るやと。
曰く、力の甚だつよき者と雖も、短近を節量して、其の宜しきに適するに非ずんば、則ち物を害する能はず、魯縞ろこうの脆きなり。
強弩の末は穿つ能はず、毫末ごうまつの軽きなり。
衝風しょうふうの衰は起こす能はず、鷲鳥のはやしと雖もなり。
高きより下りて遠く来る、羽翼の力をくすに至りては、安くんぞ能く撃搏げきはくして毀折きせつせんや。
嘗て遠形を以て戦ひ難しと為す者は此れなり。
是の故に麹義きくぎ公孫瓚こうそんさんを破るや、伏を数十歩の内に発し、周訪杜曾とそうを敗るや、奔りて三十歩の外に赴く、節短の義を得るなり、と。
大全に云はく、
孫子、人の勢と節を是れ両層と看るを恐る、故に一物を取りて比似す。
又た人の険短の義を知らざるを恐る、乃ち一物を弩に取りて以て之に喩ふ。
弩をる者は、張満の弩なり、弩が満つれば則ち矢はつよし、其の勢、何如いかんか険。
機なる者は弩牙なり、牙を発せば則ち矢は親し、其の節、何如んか短。
此れ奇兵の能く当る莫く、能く避くる莫きを見る、と。

語句解説

毀折(きせつ)
毀損すること。やぶれこわれる。
魯縞(ろこう)
魯の国に産出する薄く縞の細かいしろぎぬのこと。
毫末(ごうまつ)
毛の先。微小のもの。毫は細い毛の意。
衝風(しょうふう)
はやて。はげしく吹く風のこと。
麹義(きくぎ)
麹義。後漢末の武将。袁紹の配下として活躍。公孫瓚との戦いでは楯兵と強弩隊を連携させて精強な騎馬隊を撃破した。
公孫瓚(こうそんさん)
公孫瓚。後漢末の群雄の一人。白馬で統一された騎射隊を率いて活躍、白馬長史の異名を持つ。河北をめぐる袁紹との戦いで敗れて自刃。
周訪(しゅうほう)
周訪。東晋の名将。猛将・杜曾との戦いでは両翼を破られるもその疲弊をみて、杜曾が三十歩進まぬうちに一気に突撃し、大いに破ったという。
杜曾(とそう)
杜曾。晋末から五胡十六国前期の武将。勇猛をほしいままにするも周訪に敗れて死亡。甲冑を纏ったまま水中を泳ぎまわれたという逸話がある。
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