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孫武

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孫子-軍形[2]

勝つ可からざる者は守ればなり、勝つ可き者は攻むればなり。
守るは則ち足らず、攻むるは則ちあまり有り。
善く守る者は、九地の下に蔵し、善く攻むる者は、九天の上に動く。
故に自保して全く勝つなり。

現代語訳・抄訳

敗れざるに至るは自ら治めて守るからであり、勝ちを得るは時を失わずして之を攻めるからである。
守るは我に足らざる処あるが故に不足を補いて時宜を待ち、攻むるは敵に乗ずるところ余り有るが故に隙を見てこれを攻む。
善く守る者は、地の利に従いて之を治め、無形にかくれて敗れる無く、善く攻むる者は、天の時に従いて之を決し、無形に動きて失する無し。
故に自ら保ち全くして勝つという。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」68-69/183
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備考・解説

余り有りは自軍の勢い余り有りて攻むるに足るとの言説あり。
攻むる時は士気を高めて一気に決す、これまた通ずと雖も採らず。
攻むるは勝ちを知って後に攻む。
孫子曰く、勝ちは知る可くして、為す可からず、と。
別の解釈として不足は九地の下に蔵すが故に敵の勢を容れるに足り、有餘は九天の上に動くが故に時宜を得て決するに余裕有りとするも可なり。
これ下句に通ず。
九地九天共に人智の及ぶところに非ず、故に察して通ずるに外無く、これを致さば百戦して危からず、勝ちを得て是れ全し。
天地に沿いてこれを為すは、その人ありて初めて得。

山鹿素行曰く、
敵人の我に勝ちを得ざるは我れ能く守り備ふる故なり。
勝つ可きと云へるは、かかって彼を攻撃す可きの図を云へるなり、と。
山鹿素行曰く、
勝つ可からざるが故に守るものは、不足を以て根とすべし、この故にあとを隠し形を潜みて、其のあらわるる機を窺がはれざる如くするにあり。
攻むるものは彼が打つべき虚を見て、急に打つあるが故に、図を見て是を打つことは、振起して彼れ更にふせぎ当ること叶わざる如く、威を逞うして勢をつよくするなり。
足らざると云ひあまり有りと云ふ、皆な形勢にかかる言なり。
凡そ守りて形を隠すの極みは険を守り城によるなり、攻むるの極みは堅を破り城を陥るるなり。
然れば守攻の二字は広く戦法にかかりては、城を守り城を攻むる、是れ乃ち守攻なり。
城を守るもの之を攻むるもの共に此の心得なり。
一説に、城を守るものは、たとえ有餘とも外へ示すに不足なるが如く致して寄手を引き寄せ之を打つ可く、寄手は之に反し、不足と云ふともあまり有るが如く致すべし。
兵衆士卒の有餘不足ばかりに限らず、諸事のはかりごと、守は不足を示し、攻は有餘を示す、是れ太宗問対に出でる所の説なり。
直解に云ふ、唐の太宗乃ち云ふ、守法は敵に示すに足らざるを以てし、攻法は敵に示すにあまり有るを以てすと。
兵法と暗合すと雖も、然れども亦た此の処の正解に非ず、と。
山鹿素行曰く、
九地九天は静と動の至極を云へり。
九は究なり、数の究を九と云ふ。
凡そ天に九有り、日月、五星、二十八宿、無星天、是れを九天と曰ふ。
天に九数有り、故に地も亦た九層有り、人君の居亦た此れに象りて、九重を設くるなり。
地は陰にして静なり、天は陽にして動く、殊に守るものは必ず険固にたより地利によるものなり、はたらくものは動きて休まず、其の時を失はざるにある故に、天地の字を用ゆるなり。
守るものは守るの形、無形に至りて、まことの守ると之れ云ふ可く、攻むるものは攻の形、又た無形に至りて、攻むるの実を得可し。
故に九地の下に蔵すは、守るの無形を云ふ可きなり、九天の上に動くは、攻むるの無形なり。
是れ守るも攻むるも此の如くに致さずしては形の全を得ざるなり。
凡そ守るもの守の実を得ず、故に半にして守ることを失ひて攻むることを致す。
攻むる者も亦た此の如し、是れ皆な守攻の実を得ずして、動静其の道にあたらざるなり。
九地の下に蔵し、九天の上に動くが如く、守はいつも守、攻はいつまでも攻なれば、守攻皆な中るなり。
九天の上に動くの説、旧説皆な其の迅速に比す、言ふは来るの速にして備ふ可からざるなり。
杜牧梅堯臣王晢張預直解之に従がふ。
講義に云ふ、運用、神の如しと。
開宗に云ふ、九天の上は、動の極なりと。
魏武注に云ふ、天時の変に因る者は、九天の上に動くと。
案ずるに九天の上に動く者は、あまり有るの極なり。
九天の上に動かば、則ち九天震動して乾坤倒覆す、彼れ何を以て之を守禦せん。
或ひは迅速と為し、或ひは神の如しと為し、或ひは天時に因ると為す、皆な是れ一事にして全からず。
況やあまり有るの義を失ふをや、と。
山鹿素行曰く、
自保は勝つ可からざるを為すなり、守なり、九地の下に蔵すなり。
全勝は勝つ可きを待つなり、攻なり、九天の上に動くなり。
全字を用ひて勝の実をあらわせり、と。

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