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孫武

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孫子-作戦[2]

国の師に貧しき者は遠くいたせばなり、遠くいたさば則ち百姓貧し、師に近き者はたかく売る、たかく売らば則ち百姓、財く。
くれば則ち丘役きゅうえきに急なり。
力屈し財き、中原の内、家に虚ならば、百姓の費、十にして其の七を去る。
公家の費、車を破り馬を罷らん、甲冑矢弩やど戟楯げきじゅん蔽櫓へいろ丘牛きゅうぎゅう大車たいしゃ、十にして其の六を去る。
故に智将は食を敵に務む、敵に一しょうを食むは、吾が二十鍾に当たり、萁稈きかん一石、吾が二十石に当たる。

現代語訳・抄訳

国家が兵を挙げると貧しくなるのは遠く輸送するからである。
遠く輸送すれば国中の百姓は労役に苦しむことになり、国内の用を為せずして貧しくなってしまう。
また、四方より戦地に来たる商人は、諸品を高く売る。
用品なれば買わざるを得ず、故に財は消費され欠乏し、百姓に対する労役や軍用品の徴発が盛んとなる。
外には兵士の気力が萎え、財貨は欠乏し、国内においては人手足らずして家業全からず、故に百姓の費えは十のうちその七を失い、朝廷の費えは戦車とそれを引く馬、甲冑や大弓、戟楯や大楯、荷駄車とそれを引く牛など、十のうちその六を失う。
故に智将なれば必ず糧食を敵地に得るように務むるのである。
敵地において一しょうを得るは、自国から二十鍾を運ぶに当たり、牛馬の食する豆がらもまた一石を得れば、二十石を運ぶに当たるといえよう。

出典・参考・引用
山鹿素行注・解「孫子諺義」43-46/183
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古典
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備考・解説

「百姓財く」に関しては二説。
ひとつは、兵の多くは徴兵によるが故に軍と百姓を分たず、故に百姓財竭くという説(軍の財が竭くと同意)。
もうひとつは、軍として商人から買えば軍の諸費用は高くなり、その分を民から税として多くとることになる、故に百姓の財が竭くとする説。
次節の「財が竭きれば丘役に急なり」と続くことから考えると、軍と百姓を分たずとする最初の説が妥当であろう。

大全に云はく、
遠輸の害は、孫子の言、其の詳尽を極むと謂ふ可し。
然りと雖も猶ほ言ふ可きや、唯だ中途接せざれば則ち師に近き者は必ず貴売きばいす、貴売きばいすれば則ち軍に於いて買はざるを得ず。
但だ軍に於いて価一分を加ふれば、即ち民に於いて賦一倍を加ふ、而して百姓の財く。
勢ひ必ず丘役供給の家に急にす、と。
又た云はく、
古者、兵民分たず、故に三軍財くと言はずして、百姓財くと曰ふ。
丘役供給の人、自然意を要す、と。
開宗に云はく、
今、七十萬家の力を以て、十萬の師に於いて千里の外に供餉ぐしょうす、百姓、いづくんぞ貧ならざるを得ん。
秦皇、おおむね三十しょうにして一石を致し、漢武、おおむね十余鍾にして一石を致すが如き、関中進めずして民ひとしく号泣し、西海戍守じゅしゅして百姓業を失す、と。
廣註に云ふ、
但だ言ふ、国用足らざれば、勢ひ必ず足るを民に取り、百姓財くるに到る、直だ是れ奈何す可きや。
此れ武子喫緊きつきん人を打動する処、費を算せざるを得ざる意を見る、と。
開宗に云ふ、
蓋し転輸の法、費十にして方に其の一を得、況や敵一しょう一石を失ひ、我れ又た一鍾一石を多くす。
故に二十鍾二十石に当たる可し、と。
大全に云はく、
食を敵に務むるは、糧を敵に因ると、旨趣ししゅ相ひ同じと雖も、但だ務字と因字と、各々説く所有り。
因は其の空隙に乗じて之に因るに過ぎざるなり、務は則ち専ら敵の糧を注して、以て必ず得るを求むるの意、孫子、前に糧を敵に因ると説き、人の視を偶々一たび之を為すの事と為すを恐る。
所以ゆえに又た一の務字を説き、以て人の必ず敵に食するの意を要する、と。

語句解説

丘役(きゅうえき)
賦役。人民に課せられた税と労働のこと。
蔽櫓(へいろ)
大楯。
丘牛(きゅうぎゅう)
大牛。また、民の課役として出す牛。
大車(たいしゃ)
牛が引く平地用の大きな車。雑具荷物をつむ車。
鍾(しょう)
重量や容量を量る意。穀量をはかるのに用いる。六斛四斗(約百二十リットル)または四釜(約五十リットル)。
萁稈(きかん)
豆がら。牛馬の食として用いる。
供餉(ぐしょう)
供物。供はそなえる、すすめる意。餉は弁当などをおくる意。
戍守(じゅしゅ)
辺境を守ること。
孫武(そんぶ)
孫武。春秋時代の兵法家。斉の人。呉の闔閭に仕えて覇を唱えさせた。その著である「孫子」は有名で、武田信玄の風林火山は孫子が出典。
喫緊(きつきん)
さしせまって大切なこと。非常に大事なこと。緊要。
旨趣(ししゅ)
おもむき。主意。
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