孔子
論語-里仁[5]
子曰く、
富貴は、是れ人の欲する所なり。
其の道を以てせずして之を得るとも、処らざるなり。
貧賤は、是れ人の
其の道を以てせずして之を得るとも、去らざるなり。
君子、仁を去りて
君子は
現代語訳・抄訳
孔子が言った。
富貴は誰しもが欲する所であり、貧賤は誰しもが
しかし君子なれば、その道に適わずして得る富貴などに拘泥することは無く、その道に適わずして得る貧賤から逃げることも無い。
されば君子たるもの、仁ならずしてどうして君子の名を成すに至ろうか。
君子は食を終るの間にも仁に
- 出典・参考・引用
- 久保天随著「漢文叢書第1冊」143-145/600,簡野道明著「論語解義」59-60/358
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備考・解説
得るべくして得た富貴なれば処るべし、得るに当たらざる富貴は恥ずべきものなるが故に君子は処らず。
時勢の然らしむるところの貧賤は己が非にあらず、故に君子は貧賤を意に介せずして去ること無し。
その特立独行なる者、義に適きて惑わず、道を信じて自らを知りて、憂い無き所以なり。
注に曰く、
其の道を以てせずして之を得とは、得るに当たらずして之を得るを謂ふ、と。
大全に、或ひと問ふ、
君子にして道に非ざるを以て富貴を得ること有る者は何ぞやと。
朱子曰く、是れ亦た
勉斎黄氏曰く、
其の道を以てせずといふ者は、此れ等の事無くして、水火盗賊註誤の為に、刑戮の類ひに陥ひりて貧賤を致すを謂ふなり。
然れども富貴に於いては則ち処らず、貧賤に於いては則ち去らず、君子の富貴を審らかにして貧賤に安んずることや此の如し、と。
程子曰く、
無道にして富貴を得る、其れ恥づ可きと為すは、人皆な之を知る。
而して処らざるは、惟だ特立する者のみ之を能くす、と。
朱子曰く、
其の道を以てせずして富貴を得れば、須らく是を審らかにすべし。
苟くも其の道を以てせざれば、決して是れ受く可からず、其の道を以てせずして貧賤を得て、却て安んぜんことを要す。
蓋し我れ是れ当に貧賤なるべしと雖も、然も当に之を安んずべく、上面に於いて
葉氏曰く、
富貴に苟くも処らざれば、則ち以て長く楽に処る可し。
貧賤に苟くも去らざれば、則ち以て久しく約に処る可し、と。
四書説に云く、
処らざる去らざるは、
正解に曰く、
此の節は、言を
不義の富貴、之に処れば則ち吾が仁を累す、故に処らず。
自ら致すに非ざるの貧賤は、之を去れば則ち吾が仁を害す、故に去らず。
此の心は
注に曰く、
言ふは君子の君子
若し富貴を貪りて貧賤を厭へば、則ち是れ自ら其の仁を離れて君子の実無し。
何ぞ其の名を成す所あらんや、と。
慶源輔氏曰く、
貪の字は審の字と相ひ反す、厭の字は安の字と相ひ反す、と。
雙峯饒氏曰く、
君子は仁を去りて
新安陳氏曰く、
名は実の賓、名の字に因りて其の実に遡る、と。
燃犀解に云く、
食を終るの間は、只だ片時の字と作すと看よ、食の字に泥む勿れ。
食を終るの間にも仁に違ふこと無し、只だ是れ常々仁に違はざず、
注に曰く、
食を終るとは一飯の頃、造次は急遽
但だ富貴貧賤取舎の間のみならざるなり。
言ふは君子の仁を為すこと、富貴貧賤取舎の間より、以て食を終へ造次顛沛の頃に至るまで、時無く処無くして其の力を用ひざることなり。
然も取舎の分明にして、然る後に存養の功密なり、存養の功密なれば、則ち取舎の分益々明らかなり、と。
朱注に曰く、
存は
蒙引に云く、
集註に謂ふ所の存養は、蓋し動静を兼ねて言ふ、と。
語句解説
- 造次(ぞうじ)
- とっさの場合。わずかの間。あわただしい様。あわてる様。
- 顚沛(てんぱい)
- 危急のとき。非常な難儀。顚はたおれる、沛はさかん、はげしい。
- 博奕(ばくえき)
- 博打。すごろく。ばくち。
- 奢侈(しゃし)
- 程度を超えたぜいたく。おごり。
- 淫肆(いんし)
- 淫らに肆(ほしい)ままにする。節するところの無い様。
- 計較(けいこう)
- はかりくらべること。計校。「けいかく」とも読む。
- 汲汲然(きゅうきゅうぜん)
- 一つのことに休まずに専念すること。
- 彌子瑕(びしか)
- 彌子瑕。戦国時代の衛で霊公に仕える。始め寵愛されるも年を取ると寵愛も薄れ、過去の罪を以て断罪された(余桃の罪)。
- 孟子(もうし)
- 孟子。戦国時代の思想家。孔子の孫である子思に学び、儒学に通ず。各国を遊説して王道政治を唱えた。亜聖と尊称。
- 孔子(こうし)
- 孔子。春秋時代の思想家。儒教の始祖。諸国遊説するも容れられず多数の子弟を教化した。その言行録である論語は有名。
- 顔回(がんかい)
- 顔回。春秋時代の魯の人。字は子淵で顔淵とも呼ばれる。貧にして道を楽しみ孔子に最も愛された。三十二歳で早世し、後に亜聖と尊称。
- 頃刻(けいこく)
- わずかな時間。しばらくの時間。
- 苟且(こうしょ)
- その場かぎりの間に合わせ。一時逃れ。かりそめ。なおざり。
- 傾覆(けいふく)
- 傾け覆す。ひっくり返すこと。滅びること。国や家がくつがえること。
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