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孔子

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書経-周書[呂刑][6-8]

王曰く、
ああ、来たれ、有邦有土ゆうほうゆうどなんじ祥刑しょうけいを告げん。
在今いまなんじ百姓を安んず。
何をか擇ばん、人に非ずや。
何をかつつしむ、刑に非ずや。
何をかはかる、及ぶに非ずや。
両造りょうぞう具備せば、もろもろ、五辞を聴き、五辞簡孚かんぷなれば、五刑に正し、五刑に簡ならざれば、五罰に正し、五罰に服せざれば、五過に正せ。
五過のやまひは、れ官、惟れ反、惟れ内、惟れ貨、惟れ来。
其の罪ひとしき、其れ之を審克しんこくせよ。
五刑の疑ひは赦す有り、五罰の疑ひは赦す有り、其れ之を審克しんこくせよ。
簡孚かんぷおほき有り、かおかんがふる有り。
簡無くば聴かず、ともに天威をつつしめ。
墨辟ぼくへきの疑ひは赦せ、其の罰は百かん、其の罪を閲実えんじつせよ。
劓辟ぎへきの疑ひは赦せ、其の罰はれ倍す、其の罪を閲実えんじつせよ。
剕辟ひへきの疑ひは赦せ、其の罰は倍差ばいさす、其の罪を閲実えんじつせよ。
宮辟きゅうへきの疑ひは赦せ、其の罰は六百かん、其の罪を閲実えんじつせよ。
大辟たいへきの疑ひは赦せ、其の罰は千かん、其の罪を閲実えんじつせよ。
墨罰ぼくばつたぐひ千、劓罰ぎばつたぐひ千、剕罰ひばつたぐひ五百、宮罰のたぐひ三百、大辟たいへきの罰は其のたぐひ二百。
五刑のたぐひ三千。
上下罪を比して、僣乱せんらんことば無し、行はざるを用ふる勿れ、の法を察し、其れ之を審克しんこくせよ。
上刑も軽きにかば下に服し、下刑も重きにかば上に服す。
諸罰を軽重してはかる有り。
刑罰は世に軽く世に重し、ととのふることととのふるに非ざること、倫有り要有り。
罰は懲らしてころすに非ず、人は病めるに極まる。
佞に獄をさだむるに非ず、れ良に獄をさだむべく、中に在るに非ざるし。
辞をたがへるに察し、従ふに非ずしてれ従ふ。
哀敬あいけいして獄をさだむ、明らかに刑書をひらきてはかれ、な中正なるをこひねがはん。
其の刑、其の罰、其れ之を審克しんこくせよ。
獄成りてまこととし、いたしてまこととす。
其の刑、上に備はば、両刑をあはすこと有り、と。

現代語訳・抄訳

穆王が言った。
ああ、来たれ、天下の国をたもち民を統べる者達よ、汝等に刑罰の要道を告げよう。
いま、汝等は万民を安んずべき立場に在る。
然らば何者を任用するべきか、徳を有したる賢哲の他に何があろう。
然らば何をつつしむべきか、刑罰を乱さざるの他に何があろう。
然らば何をはかるべきか、獄訟を審らかにするの他になにがあろう。
訴えし者、訴えられし者、皆な来たれば諸々の獄官は五刑に関する申し立てを聴き、それが妥当ならば五刑を以て正し、五刑に疑わしければ、五罰を以て贖罪させ、五罰にすら疑わしければ五過にして赦すのである。
然れども罪を赦すに五事の通弊がある。
権勢におもねり、私怨に乱し、女謁じょえつに惑い、賄賂に溺れ、求め請われて許諾する、これら五事を以て罪を変ずる者は、皆な変ぜし罪と同罪である。
汝等、これを察して明らかにするのだ。
五刑に処するに疑いある時は五罰に正して赦すことが有り、五罰に処するに疑いある時は五過に正して赦すことが有る。
汝等はこれを察して尽くさねばならぬ。
たとえ事実に照らして明らかなることが多くとも、更にその言語容貌において実情の是非を吟味するのだ。
事実に明確ならざれば、決して聴いてはならない。
天威を畏れ慎みてこれを決するのだ。
入れ墨の刑に当たるとも疑わしいならば赦し、百かんを以て贖罪とし、その上で罪の当否をはっきりさせよ。
鼻そぎの刑に当たるとも疑わしいならば赦し、二百かんを以て贖罪とし、その上で罪の当否をはっきりさせよ。
足切りの刑に当たるとも疑わしいならば赦し、三百かんを以て贖罪とし、その上で罪の当否をはっきりさせよ。
去勢の刑に当たるとも疑わしいならば赦し、六百かんを以て贖罪とし、その上で罪の当否をはっきりさせよ。
死刑に当たるとも疑わしいならば赦し、千かんを以て贖罪とし、その上で罪の当否をはっきりさせよ。
入れ墨の刑、鼻そぎの刑に属する条目は各々千、足切りの刑に属する条目は五百、去勢の刑に属する条目は三百、死刑に属する条目は二百、故にこの五刑に当たる罪は三千である。
この三千の条目に適当なるを得ずして定め難き時は、その罪の軽重を察して上下の条目に当てはめよ。
さすれば須らく是となろう。
決して古法に拘泥して今にそぐわぬ処断を為してはならぬ。
軽重を察し今に則り、あるべき姿を明らかにして尽くすのである。
たとえ罪が上刑に当たるとも、情に照らして軽きに適えば下刑に処し、たとえ罪が下刑に当たるとも、情に照らして重きに適えば上刑に処せ。
このように各々の罰について軽重をはかり、また、世々に照らして一世の軽重をはかれ。
然れども、その中には必ず万世不変の倫序要道のある事を忘れてはならない。
罰は過ちを懲らすが本であり、決して人を殺すことが目的ではない。
人は懲らして己を省みさせることが肝要である。
訴えを聴く者には弁舌巧みなる佞人を用いず、必ず温良有徳なる者を以て任ぜよ。
さすれば必ず中正を以て事を処し、その定めし所は必ずや人心に適うであろう。
言葉は実情を察する所以であって実情そのものではなく、故にそのたがうは必然である。
訴えを聴く者はこれを察して裁断せねばならぬ。
辞に従うを得ざるとも、必ずその人情に従い、その実情を察して情を整え、中正を以て聴くのである。
人情を斟酌しんしゃくして訴えを定め、刑書を以てこれを明らかにし、全てに照らしてこれをはかれ。
只々、汝等が中正なるを以て刑を処することを願うのみである。
其の刑する所、其の罰する所、必ず明らかにしてこれを尽くすのだ。
斯様にして獄を定めるならば、下に示さば民はこれを信とし、上に奏さば君もまたこれを信とするであろう。
もしもその刑を罪の重きに適いて上刑と定めたならば、上刑下刑の両方を併せてこれを奏上するのだ、と。

出典・参考・引用
林英吉著「五経講義」書経之部145-147/158,山井幹六述「尚書」316-319/348
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備考・解説

「惟れ貌に稽ふる有り」の解説として次の記述がある。
裁判には五聴といふことあり。
顔色、容貌、言語、行動等によりて罪状を察し、以て軽々しく獄を断ずる弊を防ぎしものなり。
「刑罰は世に軽く世に重し」の解説として次の記述がある。
荀子に「乱には則ち刑軽く、治には則ち刑重し」といへるも亦たこの意なり。
之れを以て刑罰の済一にして一定不変なるは却ってその当を得たるものにあらず。
条理秩然としてよく其の要領を得、時の宜しきに適し、一人を刑罰して万人を警戒するに足るが本来の目的なり。

語句解説

祥刑(しょうけい)
祥は吉祥。福、善とある。また、注釈には「祥の言たる詳なり。天、禍福を以て降す際には詳審に告げ悟すなり」とある。
両造(りょうぞう)
当事者の申し立て。原告と被告の併称。造は至るの意で、法廷に至ること。
簡孚(かんぷ)
事実を調べること。孚(まこと)を簡(しら)べる。また、「簡」自体にもまこと、とおる、あきらかの意がある。
審克(しんこく)
審らかに克くす。註釈に曰く、「之を察すること詳にして、其の能を尽くすことなり」と。
墨辟(ぼくへき)
五刑の一。墨刑。入れ墨の刑。
鍰(かん)
重さの単位。金銭の量に用いられる。
閲実(えんじつ)
実否を調べること。実情に沿うか否かをあたり、はっきりさせる。
劓辟(ぎへき)
五刑の一。劓刑。鼻切りの刑。
剕辟(ひへき)
五刑の一。剕刑。足切りの刑。
倍差(ばいさ)
一倍半。二倍して差を半分引く。
宮辟(きゅうへき)
五刑の一。宮刑。男子は去勢し、女子は幽閉する。また、男女ともに生殖機能を奪う刑とも。
大辟(たいへき)
五刑の一。死刑。死罪。大きな刑罰。
僣乱(せんらん)
僭乱。上下の秩序を乱すこと。
女謁(じょえつ)
女が寵愛を利用して頼みごとをすること。
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