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曾先之

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十八史略-東漢[孝安皇帝][黄憲]

太后崩ず、鄧隲とうしつやめられて自殺す。
汝南じょなんの太守王龔おうきょう、才を好み士を愛す。
袁閬えんろうを以て功曹こうそうと為し、黄憲こうけん陳蕃ちんぱん等を引き進む。
憲が父、牛醫ぎゅういを為す。
憲、年十四たり、頴川えいせん荀淑じゅんしゅく逆旅げきりょに遇ひ、竦然しょうぜんとして之を異として曰く、
子は吾の師表なり、と。
ろうまみへて曰く、
子が国に顔子有り、と。
閬曰く、
吾が叔度しゅくどを見たるか、と。
戴良たいりょう、才高し。
憲にまみへて帰る毎に、惘然ぼうぜんとして自失せるがごとし。
其の母曰く、
汝じ復た牛醫の兒より来るか、と。
陳蕃等、あひ謂ひて曰く、
時月じげつの間、黄生こうせいを見ざれば、鄙吝ひりんきざし、復た心に存す、と。
太原たいげん郭泰かくたいろうを過ぎて宿せず、憲に従ひて日をかさぬ。
曰く、
奉高ほうこうの器は、之を氿濫きかんたとふ、清むと雖もみ易し。
叔度は汪汪おうおうとして、千頃の陂の若し。
之を澄ませども清まず、之をみだせども濁らず、量る可からざるなり、と。
憲、初め孝廉こうれんに挙げられ、又た公府こうふさる。
人、其の仕へんことを勧む。
しばら京師けいしに到りて、即ち還る。
年四十八にして終れり。

現代語訳・抄訳

皇太后が死去した。
皇太后の兄として権勢を振るっていた大将軍鄧隲とうしつは罷免され、自殺した。
汝南じょなんの太守であった王龔おうきょうは才を好み士を愛した。
袁閬えんろう功曹こうそうと為し、黄憲こうけん陳蕃ちんぱん等を挙用した。
黄憲の父は牛医であった。
黄憲が十四才のとき、頴川えいせん荀淑じゅんしゅくと宿場で出会った。
荀淑は一目みた途端にその人物に感じて云った。
あなたは私の理想とする人である、と。
そして袁閬えんろうに見えて云った。
この国には顔子が居る、と。
袁閬は云った。
黄憲に出会ったのか、と。
戴良たいりょうは才能溢れる人物であった。
黄憲と会って帰る毎に、茫然自失とする有様であった。
その様子に戴良の母は云った。
お前はまた牛医の児に会ってきたのか、と。
陳蕃等は互いに語りあって云った。
しばらく黄憲に会わないでいると、鄙吝ひりんの心がまた生じてくる気がするのだ、と。
太原たいげん郭泰かくたいは袁閬を訪ねてもほとんど逗留することはなかったが、黄憲を訪ねると何日も滞在して共に居た。
郭泰は云った。
袁閬の器量を譬えてみれば、小さな泉のようなものである。
清らかではあるが浅くて簡単に汲むことができる。
しかしながら、黄憲の器量は広く深い広大なる湖のようで、澄まそうとも澄まず、濁らそうとも濁らないのである。
どれだけのものなのか計り知れないのだ、と。
黄憲は初め孝廉こうれんに挙げられ、公府に召された。
周りの人々は出仕するように勧めた。
黄憲は都へと出向き、しばらくして帰った。
年四十八にして卒したという。

出典・参考・引用
早稲田大学編輯部編「漢籍国字解全書」(第36-37巻)201-202/306
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語句解説

功曹(こうそう)
郡の属官で書史を司る。漢代の官名。
牛醫(ぎゅうい)
牛医。牛の医者。牛医児は軽蔑語。
逆旅(げきりょ)
旅館。宿屋。旅人を逆(むか)える所の意。
竦然(しょうぜん)
つつしみおそれるさま。恐れてぞっとするさま。
師表(しひょう)
人の師となり手本となること。学徳などが優れ人々の模範となること。
顔回(がんかい)
顔回。春秋時代の魯の人。字は子淵で顔淵とも呼ばれる。貧にして道を楽しみ孔子に最も愛された。三十二歳で早世し、後に亜聖と尊称。
鄙吝(ひりん)
いやしき心。度量が小さく心がいやしいこと。品性がいやしいこと。
氿濫(きかん)
水の小さく湧き出るもの。氿は泉の横穴から出ること。濫は泉の地底から出ること。
汪汪(おうおう)
深く広い様。水の広々として深く湛える様。
孝廉(こうれん)
前漢からの官吏任用科目の一つ。各地域から孝行で清廉潔白な人物が推薦されて官吏として採用された。明や清の時代の場合は科挙第一次試験の合格者の別名。
京師(けいし)
都、天子の居。春秋公羊伝の桓九年に「京師とは天子の居である。京とは大、師とは衆、天子の居は必ず衆大の辞を以てこれを言う」とある。
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