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荀子

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荀子-性惡[1-2]

人の性は悪、其の善なる者は偽なり。
今人こんじんの性、生れて利を好むこと有り、是にしたがひ、故に争奪生じて辞譲を亡ふ。
生れて疾悪しつお有り、是に順ひ、故に残賊ざんぞく生じて忠信を亡ふ。
生れて耳目じもくの欲有り、是に順ひ、故に淫乱生じて禮義れいぎ文理ぶんりを亡ふ。
しからば則ち人の性に従ひ、人の情にしたがへば、必ず争奪に出で、犯分乱理はんぶんらんりに合して暴に帰す。
故に必ずまさ師法しほうの化、禮義の道有りて、然る後に辞譲に出で、文理に合して治に帰せんとす。
此れを用ひて之を観れば、然らば則ち人の性の悪なること明らかなり。
其の善なる者は偽なり。
故に枸木こうぼくは必ず将に檃栝いんかつし、烝矯じょうきょうを持して然る後になおく、鈍金どんきんは必ず将に礱厲ろうれいを持して然る後に利ならん。
今人こんじんの性は悪、必ず将に師法を持して然る後に正しく、禮義を得て然る後に治まり、今人に師法無くんば、則ち偏険へんけんにして正しからず、禮義無くんば、則ち悖乱はいらんして治まらず。
古の聖王は人の性悪なるを以て、以て偏険にして正しからず、悖乱して治まらずと為し、是れを以て之が為めに禮義を起こし、法度ほうどを制し、以て人の情性を矯飾きょうしょくして之を正し、以て人の情性を擾化じょうかして之を導くや、皆な治に出でて道に合せ始むるなり。
今人の師法に化し、文学を積み、禮義にとほる者を君子と為し、性情をほしいままにして、恣孳しじに安んじ、而して禮義に違ふ者を小人と為す。
此れを用ひて之を観れば、人の性悪なるは明らかにして、其の善なる者は偽なり。

現代語訳・抄訳

人の本性は悪であり、これを善にするのは人為の結果である。
今人の性は、生まれてより利を好む故に、争奪を生じて辞譲を失うのである。
生まれてより悪へと流され、遂には道義にはずれて忠信を失うのである。
生まれてより外の刺激に踊らされ、遂には節操をなくして礼義文理を失うのである。
つまりは人がその性に従い、そしてその情に順うならば、必ずや争奪に及んで分を犯し理を乱して暴へと帰す。
故に人は師による教導と法による規律によって正さなければならず、さすれば礼義の道を見失わずに辞譲の心を生じ、節操ありて治へと帰すわけである。
このように考えてゆけば、人の本性が悪であることは明らかであり、善となるのは人為の結果なのである。
例えば枸木は器に入れて蒸して矯正せねば直くはならず、鈍金は磨かなくては鋭利にはならない。
今人もまた、その性は悪であるのだから、これを正すには必ず教導と規律を要し、これを治むるためには必ず礼義を要するのである。
もしも教導と規律がなければ偏険となって正しくはならず、礼義がなければ悖乱して治まることはない。
古の聖王は人の性を悪であるとしたからこそ、礼義の奨励と法度の制定によってその性情を矯正し、その性情を教化した。
これによって人々は治に帰して道に合せんとするようになったのである。
今人において、その教導と規律に化し、文学に接し、礼義を持している者を君子といい、逆に性情のままに流されてそこに安んじ、礼義に違っている者を小人という。
これを鑑みても、人の本性が悪なるは明らかであり、善とするものは人為の結果なのは明らかであろう。

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語句解説

今人(こんじん)
今の時代の人。現代の人。
疾悪(しつお)
憎悪心。憎むこと。
残賊(ざんぞく)
きずつけたり殺したりすること。道義にはずれた乱暴。
文理(ぶんり)
筋目。あや。条理。筋道。
犯分乱理(はんぶんらんり)
分を犯し理に乱る。
師法(しほう)
手本。師から伝授された法。師から教授された正しい道。
枸木(こうぼく)
曲木。
檃栝(いんかつ)
檃括。ためぎ。弓をためる器と矢をためる器のこと。
烝矯(じょうきょう)
曲がった木をむしてまっすぐにすること。
鈍金(どんきん)
鋭利でない金属。
礱厲(ろうれい)
磨くこと。
偏険(へんけん)
性質がかたよってねじけている様。
悖乱(はいらん)
正しきにもとり乱すこと。
法度(ほうど)
法律と制度。礼法の基準になるもの。
矯飾(きょうしょく)
欠点やあやまちを直すこと。また、上辺飾り。表面ばかりを飾りたてて人をごまかすこと。
擾化(じょうか)
ならす。ならして感化を与える。
恣孳(しじ)
わがままかってにふるまう様の盛んである意。
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