1. 司馬遷 >
  2. 史記 >
  3. 列傳 >
  4. 仲尼弟子列傳 >
  5. 35-48
  6. 49-50
  7. 51-55
  8. 56-59
  9. 60-61

司馬遷

このエントリーをはてなブックマークに追加

史記-列傳[仲尼弟子列傳][56-59]

顓孫師せんそんしは陳人なり、字は子張。
孔子よりわかきこと四十八歳。
子張、ろくおさむるを問ふ、孔子曰く、
聞を多くして疑はしきをのぞき、慎みて其のあまりを言ふ、則ちとがすくなし。
見を多くしてあやうきをのぞき、慎みて其のあまりを行ふ、則ち悔ひすくなし。
言にとがめ寡く、行に悔ひ寡かれば、禄は其の中に在り、と。
他日、従して陳蔡ちんさいの間に在り、困す、行を問ふ。
孔子曰く、
言に忠信、行に篤敬とっけいなれば、蛮貊ばんぱくの国といえども行はれん。
言に忠信ならず、行に篤敬ならざれば、州里しゅうりと雖も行はれんや。
立ちては則ち其の前に於いて参ずるを見、輿こしに在りては則ち其のくびきに於いてるるを見。
夫れしかる後に行はる、と。
子張、れをしんに書す。
子張問ふ、
士は如何なるをれ達と謂ふ可きか、と。
孔子曰く、
何ぞや、なんじが達と謂ふ所の者や、と。
子張、對へて曰く、
国に在りては必ず聞こえ、家に在りても必ず聞こゆるなり、と。
孔子曰く、
是れは聞なり、達に非ざるなり。
夫れ達なる者、質になおくして義を好み、言を察して色を観、慮りて以て人に下り、国及び家に在りて必ず達す。
夫れ聞なる者、色に仁を取りて行に違ひ、之に居て疑はず、国及び家に在りて必ず聞ゆ、と。

現代語訳・抄訳

顓孫師は陳に生まれて字を子張といった。
孔子より四十八歳若かったという。
ある時、子張が禄位を得るにはどうしたら良いかを聞いた。
孔子は云った。
見聞を広く求めて危疑を省き、言動を慎んで曖昧な事をせねば、災いからは逃れ、後悔に及ぶことは少なくなる。
さすれば爵禄などは自ずから得られよう、と。
他日、子張が孔子の遍歴に従って陳から蔡へと向かう途中、孔子一行はその野において窮した。
この時に子張は孔子に行を問うた。
これに対して孔子が答えて云った。
言に忠信であり、行に篤敬であれば、如何なる国であっても成されよう。
反対に言に忠信なく、行に篤敬がなければ、例え郷里であっても何も成せはしない。
忠信なれば自然と人は我に参じ、篤敬なれば自然と人は我へと寄り添ってくるものである。
行とはこのように自然と成されてゆくものなのである、と。
これを聞いた子張は自らの帯に書き留めたという。
ある時、子張が聞いた。
士たる者、如何にあれば達と呼べるでしょうか、と。
孔子が尋ねた。
お前の達とはどのような意味なのか、と。
子張が応えて云う。
国に在りても家に在りても常にその名声が轟くことではないでしょうか、と。
孔子が云った。
それは聞というもので、達ではない。
達とは、誠ありて義を守り、言に接してはその心の動きを察し、妄動せずして人を称える者のことである。
そのような人物は国に在りても家に在りても必ず達する。
聞なる者は上辺は仁らしくあるも実際とは異なり、自らを省みることもなく今に安んずる。
国や家に在りて評判は良いが、実が伴わないのである、と。

関連タグ
史記
司馬遷
古典
  • この項目には「1個」の関連ページがあります。
<<  前のページ  |   ランダム   |  次のページ  >>

語句解説

子張(しちょう)
子張。春秋時代の陳の人。孔子の門人。名は師。孔子には「師や過ぎたり」と称された。才気溢れるも仁ならざる人物であったとされる。
闕(けつ)
「欠」「缺」に通ずる。かく。のぞく。
蛮貊(ばんぱく)
南北の異民族。蛮は南蛮のこと。貊は北狄のこと。
州里(しゅうり)
村里。田舎。
輿(こし)
くるま。こし。のせる。かつぐ。
衡(こう)
くびき。はかり。馬車の下から差し出した二本の棒の端に渡した横木。
倚(い)
よりかかる。もたれる。よりそう。
紳(しん)
太帯。着衣に用いる帯のこと。通常は高官が礼装用に用いる。
危疑(きぎ)
不安に思うこと、ためらうこと、危ぶみ疑うこと。
<<  前のページ  |   ランダム   |  次のページ  >>

関連リンク

子張
孔子の門人。紀元前503年に生まれたとされるが、没年は不詳。名は師…
孔子
中国の春秋時代の思想家。紀元前551-479年。それまでの原始儒教を体…
忠とは中せんとする心である。長短どちらでもなく、なにものにもよら…
守って違えざること。そこに止まるに足る部分。備:止まるは大学に所…
敬とは進歩向上の心であり、より高きもの、大いなるもの、偉大なるも…
仁とは一切を包容する分け隔てない心である。仁であってはじめて是を…
誠とは言を成すと書くが如く、真実で嘘・偽りのない姿をいう。真実と…
義とは自らの志より生ずる満足な決定であり、自分の心が命ずるゆくべ…


Page Top