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范曄

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後漢書-列傳[隗囂公孫述列傳][3-5]

おはり、げきを移して郡国に告げて曰く、
漢復元年七月己酉朔きゆうついたち
己巳きし、上将軍隗囂かいごう、白虎将軍隗崔かいさい、左将軍隗義、右将軍楊廣ようこう、明威将軍王遵おうじゅん、雲旗将軍周宗等、州牧、部監、郡卒正、連率、大尹、尹、尉隊大夫、属正、属令に告ぐ。
もとの新都侯王莽おうもう、天地を慢侮まんぶし、道にもとりて理に逆らひ、孝平皇帝を鴆殺ちんさつし、其の位を簒奪す。
天命に矯託きょうたくし、符書ふしょを偽作し、衆庶を欺惑ぎわくし、上帝震怒しんどせしむ。
反戻はんれいして文を飾り以て祥瑞しょうずいと為す。
神祇しんき戯弄ぎろうし、禍殃かおう歌頌かしょうす。
楚越の竹を以て其の悪を書するも足らず。
天下昭然しょうぜん、共に聞見する所なり。
今略して大端を挙げて、以て吏民にさとす。
蓋天がいてんを父と為し、地を母と為し、禍福之に応じ、おのおの事を以て降る。
莽、明に之を知るも、而して冥昧めいまいにして触冒しょくぼうし、大忌たいきを顧みず、天術を詭亂きらんし、史伝を援引えんいんす。
昔、秦の始皇謚法しほう毀壊きかいし、一二の数を以て萬世に至らんと欲し、而して莽は三萬六千歳の歴を下し、言身当に此度を尽す。
亡秦のみちしたがひ、無窮の数をす。
是れ其の天に逆ふの大罪なり。
郡国を分裂し、地絡ちらく断截だんせつす。
田を王田と為し、売買を得ず。
ただして山澤をふさぎ、民の本業を奪ふ。
九廟きゅうびょうを造起し、土作を窮極きゅうきょくす。
河東を発冢はつちょうし、丘壟きゅうろう攻劫こうごうす。
此れ其の地に逆らふの大罪なり。

現代語訳・抄訳

高祖劉邦等を祀り、その臣と称して漢室復興の大義を示し、元号を漢復に改めた隗囂は、檄文を諸国に飛ばして云った。
漢復元年七月己酉朔。
つちのとみの日、上将軍隗囂をはじめとする諸将が各地の諸臣に告ぐ。
新都侯の職にあった王莽は天地を侮り慢せにし、道理に悖って逆らい、孝平皇帝を毒殺して帝位を簒奪した。
天命と偽り、符書に瑞兆を見出して民衆を欺惑し、天帝を震怒させたのである。
偽り背いて文を飾って祥瑞を作り出し、天地の神を戯弄して禍を功績に見せかけたその悪逆非道な様は、楚越に生える竹をいくら用いても書ききれるものではない。
これは天下に明らかなことで、誰しもが知っていることである。
今、その一端を挙げ、吏民に示そう。
全てを遍く覆う天を父とし、地を母とし、禍福はこれに応じて万物は帰す。
王莽もこの道理を知っているにも関わらず、物事の筋道に暗くしてこれを冒涜し、大忌を顧みることなく天命と欺いて利用し、史伝を自説に沿うが如く乱用している。
昔、秦の始皇帝は謚法を毀壊し、己を始皇帝と称して、以後、二世皇帝、三世皇帝から万世皇帝にまで至ることを欲したが、王莽は三万六千年の後にまで暦を定めて六年に一度改元することを天下に布告した。
亡秦の跡に従って永遠を求める、是れは当に天に逆らう大罪というものであろう。
郡国を分裂させて地の経絡を断じ、天下万民の田を王田と称してその売買を禁じ、更には規制して天下万民の山沢を塞ぎ、人民の本業を奪った。
祖廟を造起するに人民を苦役させ、河東は荒れ果てて人々は祖先の墓も守ることができぬ有様である。
此れは当に地に逆らう大罪というものであろう。

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語句解説

己酉朔(きゆうついたち)
己酉は暦。朔はついたちで、これを基準に陰暦を作ることからこよみのことを示す。
己巳(きし)
干支による紀日の記述だと思われる。古代で干支は日、月、年にそれぞれ当てはめられた。
隗囂(かいごう)
隗囂。前漢末の武将で、光武帝劉秀と覇権を争い隴西を拠点として勢力を得た。晩年、窮地に陥り公孫述に臣従して光武帝と対抗するも病死。死去の一年後に勢力は滅亡した。
王莽(おうもう)
王莽。前漢の末に事実上の簒奪によって帝位を奪い、新を建国。儒教の理想を強引に政治に当てはめて混乱、民衆の反乱が続発し建国わずか15年で滅亡。
慢侮(まんぶ)
軽んじ侮ること。
鴆殺(ちんさつ)
鴆毒の酒を用いて殺すこと。毒殺全般に用いる場合もある。
矯託(きょうたく)
偽ってほかのことにかこつけること。
符書(ふしょ)
符瑞の書。符瑞はめでたいしるし。
欺惑(ぎわく)
あざむき惑わすこと。
上帝(じょうてい)
天上にあって万物を支配する神。大自然の神意。
反戻(はんれい)
従がうべきものにそむく。違反する。
祥瑞(しょうずい)
めでたいことのしるし。めでたいことの前ぶれ。吉兆。
神祇(しんき)
天の神と地の神。祇は地の神の意で、天神と地祇。
禍殃(かおう)
わざわい。不幸。
歌頌(かしょう)
功績や仁徳をたたえる歌。
昭然(しょうぜん)
明白な様。
蓋天(がいてん)
天、地をおおう空。
冥昧(めいまい)
物事の筋道にくらいこと。
触冒(しょくぼう)
罪を犯す。権威を犯す。
詭乱(きらん)
乱れたがう。
援引(えんいん)
自説の証拠として文献を引用すること。
始皇帝(しこうてい)
始皇帝。秦の皇帝。名は政。戦国末期に諸国を滅ぼして天下統一を果す。皇帝の称号を定めて始皇帝と称す。万里の長城は有名。焚書坑儒によって言論統制を行う。厳格な法罰主義で民衆は反発。死後に反乱が起って没後わずか四年で秦は滅亡。
諡法(しほう)
謚法。死者につけるおくり名をつける法則。
毀壊(きかい)
事物を壊しくずすこと。
萬世に至らん(ばんせいにいたらん)
秦の始皇帝は「臣下が君主の死後に事績を評価するのは不敬である」として古くからの謚法を廃止して二世、三世、万世皇帝と称号を定めた。
地絡(ちらく)
地脈。地層の連続した筋。
断截(だんせつ)
断ち切る。切り離すこと。
九廟(きゅうびょう)
祖廟。祖先をまつる九つのみたまや。
窮極(きゅうきょく)
きわまること。はて。
発冢(はっちょう)
墓荒し。
丘壟(きゅうろう)
墳墓。丘隴に同じ。
攻劫(こうごう)
攻めて脅かす。
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