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韓非

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韓非子-和氏[1]

楚人の和氏かし玉璞ぎょくはくを楚山の中に得たり、奉じて之を厲王れいおうに献ず。
厲王、玉人をして之を相せしむ。
玉人曰く、
石なり、と。
王、和を以てきょうと為し、而して其の左足をる。
厲王のこうじるに及び、武王即位し、和、又た其のはくを奉じて之を武王に献ず。
武王、玉人をして之を相せしむ。
又曰く、
石なり、と。
王、又た和を以て誑と為し、而して其の右足を刖る。
武王薨じ、文王即位し、和、乃ち其の璞を抱きて楚山の下に哭し、三日三夜、泣尽きて之を継ぐに血を以てす。
王、之を聞き、人をして其の故を問わせしむ。
曰く、
天下のせられる者多し、子なんぞ哭し之を悲しむや、と。
和曰く、
吾はるを悲しむに非ざるなり。
悲なるは夫の宝玉にして之を題するに石を以てし、貞士にして之を名づくるに誑を以てす、此れ吾が悲しむ所以なり、と。
王、乃ち玉人をして其の璞をおさめ、而して宝を得たり。
遂に命じて曰く、
和氏の璧、と。

現代語訳・抄訳

楚の人で和氏という者が楚山の中で璞玉あらたまを見つけて厲王に献じた。
厲王は玉工に鑑定させたが、玉工曰く、
これは石です、と。
王は和氏を君を欺く者であるとして、その左足を切った。
厲王が崩御して武王が即位すると、和氏は再びその璞玉を献じた。
武王も玉工に鑑定させてみたが、玉工は再び曰く、
石です、と。
武王も和氏を君を欺く者だとして、今度はその右足を切った。
武王が崩御して文王が即位した。
和氏は璞玉を抱いて楚山の下で慟哭し、三日三夜、泣き続けて涙が尽きると血が継いだ。
文王は之を聞いて、使者を遣わしてその理由を聞かせて曰く、
世間では足を切られる者は多いのに、どうしてそんなにも悲しむのか、と。
和氏が答えて曰く、
私は足を切られたことを悲しんでいるのではありません。
宝玉であるのに石とされ、忠貞の士であるのに君を欺く者とされた事を悲しんでいるのです、と。
これを聞いた文王は玉工にその璞玉を磨かせた。
すると和氏の言の通り、見事な宝玉であった。
文王はその立派さに感嘆してこう名づけた。
和氏の璧、と。

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語句解説

玉璞(ぎょくはく)
あらたま。まだ磨かれていない玉。
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