范曄
後漢書-列傳[朱馮虞鄭周列傳][5-6]
伯通、
侠遊は謙譲、しばしば
而して伯通自ら
往時、遼東に豕有り、子を生むや白頭なり。
異なりとして之を献ぜんとす。
行きて河東に至る、
若し子の功を以て朝廷に論ぜば、則ち遼東の豕なり。
今乃ち愚妄にして、自ら
六国の時、其の勢ひ
故に能く国に拠して
今天下
此れ猶ほ
而して伯通は獨り風に
海内を定むる者は私の
凡そ事を挙ぐるに
現代語訳・抄訳
伯通よ、あなたは耿況と共に光武帝の王業を助けた。
だから、今ではその功で耿況と同じように国から恩恵を受けている。
耿況は謙譲な人物であるから、受けた恩の大なるを自分には過ぎたものと謙遜している。
然るに伯通、あなたは自ら自分の功を誇って天下の誰も並び立つものはいないとまで自惚れている。
昔、遼東の地に豚を飼っている人がおってその豚が子を産んだ。
生まれてきた子豚の頭が白い。
これは珍しいということで朝廷に献上して恩賞に預かろうと思った。
河東に至り、ふと見ると豚がたくさん居ってどれもこれも頭が白い。
恥ずかしくなってそのまま帰ってきたという話がある。
もし、あなたの手柄を朝廷で論じたとすれば、ちょうどこの遼東之豕と同じことになるだろう。
今、あなたは愚妄にして、自ら戦国時代の六国に比している。
六国の時代、その勢いは各々盛んであり、各国を合わせてみれば数千里の国土を有し、精兵は百万に達する程であった。
故によく国に拠して互いに支えあい、長年に渡って秦に対抗し得たのである。
それに対して現状をみてみれば、天下に幾里、列郡に幾城を有しているだろうか。
どうして区々たる漁陽を以てして天子に怨みを得んと欲するのだろうか。
例えるならば、河濱の人が土を両手で運んで孟津を塞がんとするようなものであって、自らの身の程知らずを思い知るだけのことであろう。
天下は今、適々定まり、天下万民は安きを願い、士は賢なるも不肖なるも、誰もが名を世に立てることを願っている。
然るに伯通、あなたは独りで風の中を狂走しているが如く、自分で盛んなる時を損し、内には驕慢なる婦人の愚かな計策を聴き入れ、外には讒言を好むような人の阿諛迎合を信じ、長年の諸侯の悪法を以て永年の功臣の戒めとすべき前例としている。
そのような事でどうして誤らぬということがあろうか。
天下万民を定むる者は私の讐などあってはならぬし、前例を以て自らを誤るようではいけない。
願わくばその意を留めて老母幼弟を顧みるのだ。
凡そ事を挙げるのであれば、親しき者を痛い所だからと放任して、讐と見る者にばかり向うようではいけないのである。
- 出典・参考・引用
- 長澤規矩他「和刻本正史後漢書」(二)p740,范曄著・章懐太子注・鈴木義宗点「後漢書」第15冊24/59
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語句解説
- 彭寵(ほうちょう)
- 彭寵。後漢初期の武将。字は伯通。河北の漁陽太守で光武帝に味方して王業を助ける。後に離反して独立したが滅ぼされた。
- 耿況(こうきょう)
- 耿況。後漢建国の功臣。名将耿弇の父。字は侠遊。上谷太守で光武帝に味方してその王業を助けた。
- 佐命(さめい)
- 天命を受けた天子の王業をたすけること。
- 降挹(こうゆう)
- 挹は「くみとる」「しりぞく」「おさえる」「ひく」の意。降りしりぞくこと。
- 六国(りっこく)
- 戦国期の秦を除く六つの国。強大な秦に対して東方に位置していた六つの国が合従して対抗した。
- 勝兵(しょうへい)
- すぐれた兵、精兵のこと。また、単に敵に勝った兵隊を指す場合もある。
- 相持(そうじ)
- 互いにささえあうこと。
- 区区(くく)
- 小さな。つまらない。とるにたらない。
- 河浜(かひん)
- 河濱。河のほとり。
- 孟津(もうしん)
- 黄河の渡し場の名前。
- 海内(かいだい)
- 国内、天下。古代中国では四方の海に世界が囲まれていると考えていたとされる。
- 驕婦(きょうふ)
- 悍婦。気の荒い女。
- 讒邪(ざんじゃ)
- 邪悪で人を讒言すること。
- 諛言(ゆげん)
- へつらいの言葉。こびへつらう言葉。
- 群后(ぐんこう)
- 諸侯。封建された諸国の王。一定の領地を有して権力のある者たち。
- 鑑戒(かんかい)
- 鑒戒。戒めとすべき前例。
- 親厚(しんこう)
- 特に親しいこと。
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