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安岡正篤を座右の書に

人生の大則

出版社: プレジデント社 (1995/01)
大和のこころ、それは全てを生かす源である。
日本は自国を「やまと」と称し、大和という字を当てた。
なんと素晴らしいことであろうか。
安岡正篤氏は、大和を以て大いなる矛盾と述べて曰く、
達観すれば、宇宙も人生も大和の中に存在し、活動しているのであるが、その内容に立ち入れば、決して簡単なものではない。
否、限りなく複雑微妙なものであって、見ようによっては大和とは大いなる矛盾ともとられるであろう。
大なる造化・永遠の生命の中に、間断なく新陳代謝が行われている。
その一辺に即すれば、解せぬこと、耐えられぬことが多い、と。
生死が巡り、陰陽相極まりて動くが如く、大和の理は一見矛盾するが如きものが渾然と一致して初めて和するものである。
曹参の所謂、獄市を乱さざるものは善悪を兼ね入れるを以ての故であろうか。
安岡正篤氏は、東洋と西洋の文化的違いを挙げて、東洋の古から続くところの大和の精神を説いている。
和服の統一性、日本料理の大自然、そして神社建築の極まりは、山そのもの森そのものを拝むに至るという。
そして漢字。
一字の中に含蓄黙示するところを説いて曰く、
人が自ずからにして言語を発することほど、やむにやまれぬものはない。
我々の生命がのびてくる時に自然と言語を発してくる。
だから人偏に言を書いて信といい、“のぶ”という。
ただし人間の口から出るものも、人間が自然を失わぬ間はよろしいけれども、だんだん偽が盛んになってくると、人間の口から出るもの必ずしもありがたくはない。
ただ士の口から即ち身分ある人(この頃は身分ある人も当てにならぬが)人格者の口から出るものは当てになる。
そこで吉という字を使っている。
偽という字が人為とあるのも面白い、と。
その他、温・国・武・亮などを説き、俳句を説き、家庭を説き、学問を説く。
改めて考えてみれば、その含蓄性に脱帽である。
日本人は、その含蓄統一性のある文字を日々使い、心ある者は歌を作り、そこまで至らぬ者も知らず知らずの間に大和の心に触れている。
そう考えてみれば、日本文化の根底には、常に大和が潜んでいるのである。
そして、その日本に連綿と続き、意識せずして日本人の心の奥底に潜むものに神道がある。
多くの日本人はまず意識はしていないが、知らず知らずのうちに神道の心は常に日本人と共に在るのである。
ただ、あることはあるが、人々が神道を意識しないように、神道もまた神を意識しない。
崇め奉られる始祖などは居らぬし、黒住宗忠が「神道は生きるばかりでよろしく」と述べているように、その本義はひたすら生に徹するばかりである。
生に徹することは生ある者の自然であり、生は人体の大和作用である。
一つ一つの器官、一つ一つの細胞が自然にして不可思議な相互関係を通じて発現した、大自然の神秘である。
大自然そのままであるからこそ、仏教が来たりてこれを取り込み、儒教が来たりてこれを取り込み、これらの宗教もまた日本人の中へと普く広がるを得たのであろう。
これを安岡正篤氏は仏教の思想と神道の根本理念を対比させて次のように説いている。
こういう神道の根本理念を見てきますと、自然と人となんら背反がない。
いかにも大和であり、人道は神ながらの道であります。
日本人が仏教の「如来」をよくとり入れたのはこの根本理念による力が大きく、神道は偉大な如来蔵であります。
神ながらの“な”は、“の”の変化したもの。
“から”は、“なきがら”などという形体を意味し、つまり神の具象、キリスト教でいうと神のembody,incarnationが自然であり人間であります。
神は人間を超絶した別のものではなくて、神人合一である。
だから日本人は本質的に包容、同化、創成力に富んでいるのです、と。
日本人は無宗教といわれるが、何を信仰しているのか、日本人自体も意識しない。
日本人自体が意識しないのだから当然他国に分かるわけがない、そこに何ともいえぬ偉大さがある、といえるのではないだろうか。
自ずから然るは、日本人の偉大なる大和の精神の故である。
かくれてかく在り。
日本人は、自ずから有するところの大和の心に、今こそ気付き、身を以て任ずるべきであろう。

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語句解説

曹参(そうしん)
曹参。前漢創業の功臣。蕭何亡き後には相国として漢の発展に寄与。黄老の学を重んじて無為自然を旨とし、人々はその治世を尊んだという。
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